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「男は男らしくあるべき」という規範と「生きづらさ」と「結婚」の行方

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

国際男性デーというものがあるらしい

毎年11月19日は、国際男性デー(IMD; International Men's Day)だそうである。なんでも1999年から始まり、世界の36か国以上で開催されているとのこと。その目的は、「男性と男の子の健康に注目し、性の関係を改善し、性の平等を促す肯定的な男性のロールモデルに光を当てること」「コミュニティ、家族、結婚および育児に関して男性と男の子への差別に光を当て、その問題に取り組み、解決していくこと」などとされている。

ところで、最近は「男が生きづらい」という話をよく耳にする。株式会社電通グループの電通総研が2021年に実施した「男らしさに関する意識調査」(対象は18~70歳の男性3,000人)によれば「男性のほうが女性よりも生きづらくなってきている」と感じる男性の割合が年代を問わず約5割に達するそうである。

別途、日経の記事でも、一般社団法人「Lean In Tokyo」が2019年に実施した調査結果を引用し、職場や学校、家庭などの場で「男だから」という固定観念により、生きづらさや不便さを感じる、と答えた人は半数超にのぼった(51%)、とある。

「5割の男が生きづらい」と言うが…?

両方の調査とも「男が生きづらい」と感じる男性が5割というが、逆に言えば、5割は「生きづらくない」わけである。「男だから生きづらい」とおおざっぱすぎる属性で判断するのではなく、「生きづらいと感じる男性とはどういう人なのか?」「生きづらいと感じるのは本人の内面の問題だけなのだろうか?」という多角的視点で見ないとあまり意味はない。男であるというだけで、すべての男性全員が同じはずがない。

そうした「男が生きづらい」と思う要因には、「男は強くなければいけない」という能力的規範や「男は弱音を吐いてはいけない」という精神的規範、さらには「男は家族を養うべきだ」という経済的規範などいろいろある。能力的な問題なのか、心の問題なのか、お金の問題なのか、で全然違う。

余談だが、「男が生きづらい」と男性が嘆くと、「女の方が生きづらい」と対抗主張する女性が出てくるのだが、そういう人に限って、勢い余って「女として生きたこともないくせに、男の方がつらいとかおこがましいわ。女のつらさに比べれば男のつらさなんてたいしたことない。甘えるな」とまでのたまうのだが、男として生きた女もいないのだからそれはお互い様である。なにより「男は甘えるな」という感情が出てきてしまうあたりに「男は男らしく、弱音なんかはくべきではない」という男女規範がこの女性に強く内在していることを証明するものであり、非常に興味深い。

大黒柱で頑張るお父さんは悪なのか?

また、男の経済的規範に関しては「男の大黒柱バイアスの呪縛」などとネーミングされて、まるで「家族のために一生懸命働く夫や父」そのものを否定するかのような物言いをする識者もいる。

写真:アフロ

家族それぞれ、夫婦それぞれ、考えも環境も違うのだから、それをどうして統一化しようと躍起になるのか、そっちの方がわからない。

もちろん、「男は男らしく」というような男女規範というものになじめない男性は確かにいるだろう。が、一方で、そういった規範によって生きがいを感じている男性もいる。どっちが正しいとか間違いという話でも、どっちが善でどっちが悪という話でもない。

「男性の生きづらさ」について論じようとすれば、それは書籍1冊分の文字量が必要になってしまうので、本記事においては、ちょっとした話のネタになるようなライトなデータを提供しようと思う。

配偶関係別年齢別でみる「男らしさ規範」

国の基幹統計や一般的な民間調査では、性年代別での結果は出ているものの、配偶関係別の結果を出しているところはほぼない。実は、この「男らしさ規範」は結婚という状態に向かうかどうかにおいて非常に重要な因子のひとつとなっている。私は、この「男らしさ規範」意識と、未婚と既婚とでどれくらい乖離があるかについて着目していて、継続的な調査をしている。その中から結婚に関するデータをご紹介する。

そもそも、この「男は男らしく、女は女らしくすべきだ」という男女規範に対する賛否率は年代だけではなく、未既婚で比べるとどうなっているのだろう?(質問は「男は男らしく、女は女らしくすべきである」に対して、「とてもそう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまり思わない」「全く思わない」の5段階で聞いている。何を「男らしさ」「女らしさ」と定義するのかは回答者の自由である)

結果は御覧の通りである。

男女規範意識は、男性の方が女性より高く、未婚より既婚の方が高い。何より男女の差の違い、というか対称性が明確である。男は男女規範に賛成多数で、女は反対多数なのである。男性の場合、20-30代未婚男性だけ反対意識が賛成より多いが、既婚男性はすべての年代で賛成が上回っている。

「男らしくあるべき」と思う男の未婚率

これをふまえて、男女規範の賛否別の未婚率を見てみよう。

この通り、男性も女性も男女規範意識のある方が未婚率は低い(婚姻率が高い)。特に30代男性では、賛否の違いで20ポイントもの未婚率の乖離がある。女性も男性ほどではないが、男女規範賛成派の方が未婚率は低い。

これ以外にもデータは山のようにあるが、全部はご紹介しきれない。結論から言えば、「男は男らしく」という意識が強い男性ほど結婚している率が高いし、そもそもの結婚意欲も高い。加えて、自分の子どもを持ちたいという意識も高いのである。さらにいえば、恋愛経験ゼロ率(今まで一度も恋愛相手がいたことがない)も男女規範賛成派の方が反対派より断然低い。そして幸福度も高い。

写真:PantherMedia/イメージマート

念のため、繰り返すが「男は男らしくあるべき」という男の方が恋愛も結婚も多いのである。

これらのファクトからとりあえず言えることは、少なくとも男女異性間における恋愛や結婚に関して、双方の性が「男らしさ・女らしさ」を重視することは意味のないことではなく、むしろ恋愛や結婚の原動力のひとつとなっていると判断できる。

※こういう話をすると必ず「俺は男らしさなんて反対だけど結婚できたぞ」と反論してくる御仁がいるのだが、それはいるでしょう。 男らしさが足りないと結婚できないとは言っていないし、因果関係があるとも書いていない。

もちろん、すべての男が、肉体能力的にも精神的にも経済的にもすべての面で「男らしさ」を満足させられているわけではない。精神的弱さを肉体的強さで補う男もいれば、その他の弱さをすべて経済的強さで払拭する男もいるだろう。

つまり、男らしさとは、望むと望まざるとに関わらず、男という性に課せられた遺伝子的競争原理なのであり、それは精子が卵子に到達する時から始まっているとも考えられる。

古代においては、それは獣や敵を殺傷する純粋な戦闘力だったかもしれない。しかし、現代では、学歴や就職先という武器を用いて、金を稼ぐ競争社会にあるといえよう。「筋力」ではなく「金力」が物を言う。

そう考えると、現代の男性が「生きづらさ」を感じるのは、内面の精神的な強さ・弱さなどではなく、「金を稼げない環境下の中で、金を稼げない男はその存在意義を認められない」という外的環境部分にあるのではないか。

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男女関係ない。つらさに向き合う方法とは

「男が生きづらいなら、男らしさから降りればいいじゃない」という意見もよく聞く。しかし、これは注意が必要だ。本人の意識が男らしさから降りたところで、生きづらさは解決しない。なぜなら規範とは環境だからだ。

むしろ必要なのは、「男らしくあるべき」か「男らしくなくてもいい」かというどっちか片方に100%偏るのではなく、両方を具有することである。個人の中には、元々それら両方の性質があり、時と場面によって使い分けることができるはずなのだ。人生は勝ち負けや白黒だけで決まらない。人生に折り合いをつけるということは偏った正しさだけに洗脳されないことだろう。

写真:アフロ

「男がつらい」と「女がつらい」が、どっちがつらいかを争うことにも、属性対立の話に終始するのもあまり意味はない。「つらい」と感じる人がいれば、性別や年齢に関係なく、「よければ話を聞くよ」と手を差し伸べられる関係性への向き合い方が望まれる。

つらさを和らげてくれるのは、解決方法ではなく、話を聞いてくれる誰かがいると信じられることだ。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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