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米軍と「イランの民兵」がシリアで交戦:シリア内戦の実態は「シリアでのシリア人なき戦い」

青山弘之東京外国語大学 教授
ATN、2023年3月24日

トルコ・シリア地震の被害に苦しむシリアで、またもや外国軍が爆撃を行った。ただし、今回攻撃を行ったのは、イスラエルではなかった。3月23日と24日、「イランの民兵」がハサカ県やダイル・ザウル県にある米軍の基地を無人航空機(ドローン)やロケット弾で攻撃、米軍もダイル・ザウル県内にある「イランの民兵」の拠点を戦闘機で爆撃したのだ。

違法駐留する米軍

米軍は2014年9月、有志連合を率いて、シリア領内でイスラーム国に対する「テロとの戦い」を開始、その後、自らが後援するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の支配地各所に地上部隊を派遣、基地を設置した。イスラーム国の再生阻止と油田防衛を名目とするシリア領内での軍事行動は、シリア政府を含むシリアのいかなる当事者の同意も得ずに行われた国際法違反だが、その基地は2020年2月の時点で27カ所に及んだ(拙稿「シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年)」を参照)。

「占領」と非難される「イランの民兵」の存在

一方、「イランの民兵」は、紛争下のシリアで、同国軍やロシア軍と共闘する民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、同部隊が支援するレバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などを指す。「シーア派民兵」と称されることもあるが、「イランの民兵」という呼称とともに、反体制派や欧米諸国による蔑称で、シリア政府側は「同盟部隊」と呼ぶ。シリア政府の要請に基づいて、シリア国内、とりわけシリア南東部で活動するが、反体制派はこれを「占領」と非難している。

「イランの民兵」が米軍基地をドローンで攻撃

米軍と「イランの民兵」による応酬は、最近になって始まったものではない。だが、直接の戦闘は、イラク領に面するダイル・ザウル県ブーカマール市に近い砂漠地帯に「イランの民兵」が設置しているいわゆる「イマーム・アリー基地」(イマーム・アリー・コンパウンド)上空に3月23日早朝に所属不明のドローン1機が飛来し、その直後に複数回の爆発が発生した事件がきっかけだったと考えられる(「イスラエルがシリアへの攻撃でアレッポ空港を再び利用不能にする一方、イスラエル軍ドローンが謎の墜落」を参照)。

ドローンの飛来とその後の爆発の詳細は不明だ。だが、米中央軍(CENTCOM)は同日、3月23日、米国人請負業者1人が死亡、米軍兵士複数と米国人請負業者1人が負傷したイラン・イスラーム革命防衛隊に所属するグループ、つまり「イランの民兵」の攻撃に対応したと発表したのだ。

国防総省も同日に声明を出し、シリア時間の午後1時38分に、ハサカ市に近い有志連合の整備施設が、イラン製と見られる特攻用(one-way)のドローンによる攻撃を受けたことを明らかにしたうえで、米国人請負業者1人が死亡、米軍兵士5人と米国人請負業者1人が負傷したと発表した。

また、ロイド・オースティン国務長官は、この攻撃に対して以下の通り発言した。

CENTCOMはジョー・バイデン米大統領の支持を受けて、同日夜、シリア東部でイラン・イスラーム革命防衛隊に所属する複数のグループが使用していた施設に対して、精密爆撃を実施した。
この爆撃は今日の攻撃、さらにはイラン・イスラーム革命防衛隊に所属する複数のグループによるシリア国内の有志連合に対する最近の攻撃への対抗措置として行われた。
バイデン大統領がこれまで明らかにしてきた通り、我々は我々の国民を守るために必要なあらゆる措置を講じ、我々が選んだ時間と場所に対して常に対応する。
我々の部隊を攻撃して罰を免れる者はいない。
我々の思いは、今日のはじめに殺害された請負業者の家族や同僚、負傷者とともにある。

有志連合が住民多数を逮捕

これに関して、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は、PYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局の支配下にあるハッラーブ・ジール村(ハサカ県)の米軍基地が「イランの民兵」所属と思われるドローンの攻撃を受け、米国人1人が死亡、米軍兵士複数が負傷したと発表した。

同監視団はまた、この攻撃を受け、有志連合が24日、ハッラーブ・ジール村で、住民など多数を逮捕し、「イランの民兵」との関与を捜査するための取り調べを開始したと付言した。

米軍の報復爆撃

しかし、米軍の「対応」はそれだけではなかった。

シリア人権監視団、反体制系ニュースサイトのドゥラル・シャーミーヤ、イナブ・バラディーなどによると、米軍は23日深夜から24日未明にかけて、シリア政府の支配下にあるダイル・ザウル市のハラービシュ地区にある「イランの民兵」の武器弾薬庫(穀物センター)、農村開発センター、マヤーディーン市近郊の農村地帯にある「イランの民兵」の拠点、ブーカマール市近郊の農村地帯にあるイラン・イスラーム革命防衛隊の拠点などを爆撃した。これによって、シリア人9人を含む14人が死亡した。爆撃によると思われる爆発は、ダイル・ザウル市近郊のジャフラ村でも発生した。

Step News、2023年3月24日
Step News、2023年3月24日

国務総省のパット・ライダー報道官は24日に記者会見を行い、米軍による報復爆撃の詳細について以下の通り説明した。

CENTCOMに配備されているF-15E戦闘機複数機が現地時間の午前2時40分頃に離陸した。
我々は爆撃の成果を評価中である…。初期の観測によると、複数の施設が破壊された。一連の精密爆撃は米軍兵士を守るためのもので、米国は事態悪化と犠牲者を抑えるために適切かつ慎重な行動をとった。
今朝、イランの支援を受けるグループが(この爆撃に対抗して)、シリア北東部のグリーン・ヴィレッジの有志連合を標的としてロケット10発を発射した。攻撃によって米軍、有志連合の人員に負傷者はなく、米軍の装備や施設にも被害はなかった。
我々の現時点での評価によると、これらのロケット弾攻撃はイラン・イスラーム革命防衛隊に所属するグループによるもので、昨夜(現地時間で24日未明)の(米軍による)爆撃に報復しようとして行われた。

声明によると、爆撃は米国の人員を保護・防衛するためのもので、米国は事態悪化と犠牲者を最小限に抑えるために適切且つ慎重な行動をとったという。

爆撃と砲撃の応酬

これに対して、「イランの民兵」も、ダイル・ザウル市内の複数ヵ所から米軍が駐留するCONOCOガス田に対して砲撃を加えた。

砲撃を受け、有志連合も、同市内の労働者住宅地区やハラービシュ地区にある「イランの民兵」の拠点複数ヵ所に対して再び爆撃を行った。

その後、マヤーディーン市内の「イランの民兵」の支配地から再びロケット弾3発が発射された。

米軍と「イランの民兵」の戦闘は、攻撃と報復の応酬をもって一応収束した。だが、米国の違法駐留と「イランの民兵」の存在が続く限り、戦闘再開の火種はくすぶり続けることになる。

シリアの混乱は「シリア内戦」と呼ばれる。だが、この名は、米国、イラン(「イランの民兵」)、ロシア、イスラエル、トルコといった国々がシリアを主戦場として争い合っているという実態を見えにくくしている。「シリア内戦」は、シリア政府、反体制派、PYDなどの対立に寄生する諸外国の「代理戦争」と呼ばれることもある。だが、実態は、よりたちの悪い「シリアでのシリア人なき戦い」なのである。

追記(3月28日)

3月26日、ガーリブーン旅団を名乗る組織が声明を出し、同旅団所属のドローン中隊が、ラマダーン月の第1木曜日(23日)のイラク時間午後1時に、ドローン1機で米軍が占領するルマイラーン航空基地を狙い、米占領軍の兵士らが死傷したことを認めたと発表した。

アラビー・ジャディードが、ダイル・ザウル県で活動するアブー・ウマル・ブーカマーリーを名乗るメディア活動家の話として伝えたところによると、同旅団は、イラン・イスラーム革命防衛隊に所属し、そこから直接資金援助を受け、メンバーのほとんどはイラク人とシリア人で、拠点のほとんどはダイル・ザウル県内にあるという。

また、27日には、ガーリブーン旅団がテレグラムのアカウントを通じて、ルマイラーン航空基地の攻撃に際して撮影したとされるドローンの映像を公開した。

Telegram(@alghalibun)、2023年3月27日
Telegram(@alghalibun)、2023年3月27日

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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