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イスラエルがまたもやシリアを爆撃:ウクライナ侵攻の論理によって正当化される国際法違反

青山弘之東京外国語大学 教授
Twitter (@Samer)、2022年10月27日

イスラエルがまたもやシリアを爆撃した。

シリア軍筋は10月27日の声明で、同日午前0時30分頃、イスラエル軍が占領下パレスチナ(イスラエル北部)上空から首都ダマスカス一帯に対して多数のミサイルを発射、シリア軍防空部隊がこれを迎撃し、一部を撃破、被害は若干の物的被害に限られたと発表した。

これに関して、シリア駐留ロシア軍司令部(ラタキア県フマイミーム航空基地)に設置されているロシア当事者和解調整センターのオレグ・エゴロフ副センター長も27日、攻撃がイスラエル軍のF-16戦闘機によるものだとしたうえで、8発の巡航ミサイルを発射され、シリア軍の防空部隊がそのうちの4発を撃破したが、兵士1人が負傷したと発表した。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、爆撃により、ダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)一帯に設置されているレバノンのヒズブッラーなどいわゆる「イランの民兵」の武器弾薬庫や指令所などが狙われ、ヒズブッラーの協力者4人が死亡した。死亡した4人のうち、少なくとも1人はシリア人だという。

一方、イスラエルのアルマ研究教育センターは、ツイッターを通じて、爆撃がダマスカス郊外県サイイダ・ザイナブ町近郊のバフダリーヤ村に対して行われ、高性能兵器を標的としていたとの見方を示した。

航空機の航路を監視するサーミルを名乗る活動家はツイッターで、26日にダマスカス国際空港にイランのIl-76大型ジェット輸送機が着陸したことを明らかにしたうえで、イランからのシリアへの武器搬入が爆撃の背景にあると示唆した。

報復合戦

イスラエル軍によるシリアへの侵犯行為は今年に入って37回目。イスラエル軍は10月21日と24日にも首都ダマスカス一帯を爆撃し、24日の爆撃では、ディーマース航空基地(ダマスカス郊外県)に付設されている無人航空機(ドローン)の製造工場が破壊されたとイスラエルのメディアなどが伝えていた。

なお10月22日には、シリア最大の油田のウマル油田(ダイル・ザウル県)に違法に設置されている米軍基地(グリーン・ヴィレッジ基地)で、「イランの民兵」のドローン攻撃、あるいは砲撃によると見られる爆発が複数回にわたり発生、21日のイスラエルの爆撃に対する報復と見られた。

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また、反体制系シンクタンクのアイン・シャーム研究センター、反体制系メディアのナフル・メディアによると、10月25日には、「イランの民兵」によると見られるグリーン・ヴィレッジ基地への攻撃を受けるかたちで、米主導の有志連合の戦闘機がブーカマール市(ダイル・ザウル県)一帯に展開する「イランの民兵」の一つイラク人民動員隊の拠点複数ヵ所が爆撃を実施した。爆撃は、イラク人民動員隊の車輌が、秘密裏に設置されていた国境通行所を通ってシリアからイラクに入ろうとしたのを狙って行われたという。

持ち込まれる「ウクライナ侵攻の論理」

イスラエル・トゥデイは、シリアに対するイスラエルの攻撃が頻発化していることに関して、ロシアによるウクライナ侵攻と関連があるとの見方を示している。それによると、イスラエルがシリア領内の「イランの民兵」を標的としてミサイル攻撃を激化させているのは、ウクライナでの軍事作戦に注力したいロシアがシリア駐留部隊の兵力削減している(とされる)ことや、イランが「カミカゼ・ドローン」をロシアに供与し、ウクライナ侵攻を通じて両国が関係を強めていることを受けた動きだとしている。

シリアに対するイスラエルの爆撃は、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、領土の一部を併合するのに勝るとも劣らぬ、国際法や国際規範に対する明白な違反であることは言うまでもない。だが、それが勧善懲悪によって彩られたウクライナ侵攻の論理をシリアに持ち込むことで、正当なものとみなされるのであれば、それは二重基準以外の何ものでもない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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