シリアで続く諸外国の爆撃:イスラエルが「イランの民兵」を、トルコが「分離主義テロリスト」を狙う
シリアでは10月24日も諸外国による爆撃が続いた。
同国では、2011年の「アラブの春」波及に端を発するいわゆるシリア内戦で、「今世紀最悪の人道危機」と評される悲劇を経験した。大規模な戦闘は2020年3月以降は発生していない。
分断と占領を特徴とする「膠着という終わり」
だが、国土は、シリア政府、シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャーム解放戦線)が指導する反体制派、トルコが「分離主義テロリスト」と呼び、米国がイスラーム国に対する「テロとの戦い」の協力者と位置づけるクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)によって分断されている。また、ゴラン高原はイスラエル、北部のいわゆる「ユーフラテスの盾」、「オリーブの枝」、「平和の泉」地域はトルコ、南東部のタンフ国境地帯一帯のいわゆる55キロ地帯は米国(有志連合)によって占領され、各地にはロシア軍、トルコ軍、米軍、そして「イランの民兵」が基地や拠点を設置して駐留している。
分断と占領を特徴とする「膠着という終わり」とでも呼ぶべき現実のなかで、シリア内戦を主戦場として代理戦争を繰り広げてきた諸外国は今もさまざまな思惑のもとで軍事活動を続けている。
参考書籍
■『膠着するシリア:トランプ政権は何をもたらしたのか』(東京外国語大学出版会、2021年)
10月24日に爆撃を行ったのは、イスラエルとトルコだった。
イスラエルの爆撃
シリア軍筋の発表によると、イスラエル軍戦闘機は午後2時頃、占領下のイスラエル北部から首都ダマスカス周辺の複数ヵ所を狙ってミサイル多数を発射した。シリア軍防空部隊はこれを迎撃し、そのほとんどを撃破したが、同筋によると、兵士1人が負傷、若干の物的被害が生じた。
英国を拠点として活動する反体制系NGOのシリア人権監視団や反体制メディアのサウト・アースィマなどによると、攻撃は、ダマスカス郊外県キスワ市近郊のヒルバト・シヤーブ地区にあるシリア軍防空大隊基地、ディーマース航空基地などを標的としたもので、これらの基地にはレバノンのヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」が常駐しているのだという。
シリア人権監視団によると、攻撃によってシリア軍兵士2人(うち1人は少尉)が死亡、2人が負傷したという。
イスラエルが日中にシリア領内にミサイル攻撃を行うのは異例で、サウト・アースィマは、複数の匿名筋の話として、攻撃がイラン・イスラーム革命防衛隊とヒズブッラーの司令官会合を狙って行われたと伝えた。
イスラエル軍によるシリアへの侵犯行為は今年に入って36回目。イスラエル軍は10月21日にも首都ダマスカス一帯を爆撃している。
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■ロシアがイラン製ドローンでウクライナを攻撃するなか、「イランの民兵」もシリアで米軍基地をドローン攻撃
一方、トルコは、トルコ軍がシリア政府と北・東シリア自治局(PYDが主導する自治政体)の共同統治下にあるハサカ県のカーミシュリー市を無人航空機(ドローン)で爆撃した。
爆撃に使用されたドローンは、ロシア軍の侵攻に対してウクライナ軍も投入し、その戦果が鼓舞されているバイラクタルTB2と見られる。
PYDに近いハーワール通信(ANHA)によると、トルコ軍ドローンは、カーミシュリー市のマイサルーン地区にある殉教者ダリール・サールーハーン廟の近くを攻撃し、複数人が負傷した。
一方、シリア人権監視団によると、標的となったのは、PYDの民兵として結成された人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍の軍事拠点(憲兵隊の拠点、あるいは「軍事工業機構」の施設)で、4人が死傷したという。
同監視団によると、トルコ軍によるシリア領内への爆撃は今年に入って62回目である。
しかし、シリアに対するイスラエルの爆撃であれ、トルコの爆撃であれ、シリアでの諸外国による侵犯行為は、ウクライナ情勢とは対照的に、注目されることも、非難を浴びることもほとんどない。