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ロシアがイラン製ドローンでウクライナを攻撃するなか、「イランの民兵」もシリアで米軍基地をドローン攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
サウト・アースィマ、2022年10月22日

欧米諸国やウクライナの政府、メディア、シンクタンクは、ロシアがイラン製の自爆型無人航空機(ドローン)の供与を受け、厳しい冬を迎えようとしているウクライナ各地のエネルギー関連施設への攻撃を強めているとの批判を繰り返している。

一方、ロシアとイランは、中東におけるもう一つの軍事大国であるイスラエルが、ウクライナにドローンの迎撃が可能な防空システムを供給しようとしているとして警戒感を強めている。

ロシアとイランは、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領らが言うところの「カミカゼ・ドローン」のロシアへの供与を根拠がないと否定する一方、イスラエルも、ウクライナからの防空システム供与の要請には応じず、民生用の空爆警報システムの開発支援を申し出ているに過ぎない。

ウクライナをめぐるロシアと欧米諸国の「代理戦争」と並行して、二大軍事大国であるイランとイスラエルが行う「ミニ代理戦争」とでも言うべき綱引きが徐々に顕在化するなか、諸外国による「代理戦争」のもう一つの主戦場であるシリアでも、これらの国々の緊張状態が緩和する兆しは見られない。

イスラエルによる新たなシリア爆撃

シリア軍筋は10月21日、イスラエル軍戦闘機が同日午後11時3分頃、ティベリアス湖北東上空から首都ダマスカス周辺の複数ヵ所に向かってミサイル多数を発射、シリア軍防空部隊がこれを迎撃し、そのほとんどを撃破、被害は物的被害に限られたと発表した。

イスラエル軍がシリアに対して爆撃、ミサイル攻撃、砲撃といった侵犯行為を行うのは、2022年に入ってからは35回目。

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、イスラエル軍は、ダマスカス郊外県アイン・ラドワーン地区の防空部隊大隊基地にミサイル2発を、カフル・カーク地区にある軍事施設にミサイル1発を、ダマスカス国際空港一帯(ディーマース町、フサイニーヤ町など)にミサイル多数を発射、ダマスカス国際空港一帯にミサイル多数が着弾したが、人的被害はなかったという。

また、反体制系メディアのサウト・アースィマ(首都の声)によると、イスラエル軍は、クファイル・ヤーブース村近くの国境地帯に設置されているレバノンのヒズブッラーの仮設武器弾薬庫、首都ダマスカスの西に設置されている早期警戒システム、ダマスカス国際空港一帯に設置されている武器弾薬庫などを狙った。

シリア軍は被害の詳細について明らかにしていない。だが、シリア駐留ロシア軍の司令部があるラタキア県のフマイミーム航空基地に設置されているロシア当事者和解調整センターのオレグ・エゴロフ副センター長は22日、イスラエル空軍のF-16戦闘機4機が21日午後11時2分から8分、ゴラン高原上空から巡航ミサイル4発と誘導航空爆弾8発で、シリアの首都ダマスカス一帯とディーマース航空基地一帯を攻撃し、シリア軍のレーダー基地(YLC-6Mレーダー・ステーション)と航空基地の滑走路が被弾したと発表した。発表によると、人的被害はなく、シリア軍防空部隊は迎撃し、巡航ミサイル2発と誘導爆弾4発を撃破したという。

サウト・アースィマ、2022年10月22日
サウト・アースィマ、2022年10月22日

イランによる軍事支援が標的

サウト・アースィマ、そして反体制系メディアのイナブ・バラディーが伝えたところによると、イスラエル軍による爆撃実施前の48時間で、イランから飛来した航空機2機がダマスカス国際空港に着陸していたという。

1回目は、20日晩。着陸した航空機は大型貨物機で、空港で荷物を降ろし、5時間ほど滞在した後、イランの首都テヘランに引き返したという。2回目は、イスラエル軍の爆撃の数時間前にあたる21日晩。着陸した航空機は定期旅客機だった。

両メディアによると、これらの航空機には通常、ヒズブッラーなどいわゆる「イランの民兵」に供与するための武器や弾薬が積まれており、今回の爆撃は、ヒズブッラーによってこれらがレバノンに持ち込まれるのを阻止するかたちで行われたのだという。

サウト・アースィマ、2022年10月22日
サウト・アースィマ、2022年10月22日

報復の標的は米軍

イスラエルがシリアに対して侵犯行為を行うと、報復が行われる。だが、それは、最近では報復の標的はイスラエルではなく、米軍(有志連合)に向けられることが多い。

米軍は、2014年8月にイスラーム国を殲滅するとしてシリア領内での爆撃を開始、翌年からはクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)の民兵である人民防衛隊(YPG)を主体とするシリア民主軍を支援するとの名目で、シリア領内に地上部隊を派遣するようになった。米国によるシリアでの爆撃、そして駐留は、シリアのいかなる政治主体の承諾も得ずに行われており、国際法違反にあたる。だが、米国は現在でも、27ヵ所(ハサカ県15ヵ所、ダイル・ザウル県9ヵ所、ラッカ県1ヵ所、ヒムス県2ヵ所)に違法に基地を設置、600人から3,000人の将兵を駐留させている。

10月22日夜、シリア民主軍(あるいはPYDが主導する自治政体の北・東シリア自治局に自治を委託されているダイル・ザウル民政評議会)の支配下にあるダイル・ザウル県のユーフラテス川東岸にあるシリア最大の油田のウマル油田に設置されている米軍基地(グリーン・ヴィレッジ基地)で、少なくとも5回にわたって大きな爆発が発生した。

これに関して、シリア政府に近いレバノンのマヤーディーン・チャンネルは、爆発が所属不明の無人航空機(ドローン)1機による攻撃によるものだと伝えた。また、カタールのジャズィーラ・チャンネルは、ドローンが「イランの民兵」所属と思われ、米軍基地に対してロケット弾(あるいはミサイル)多数を発射したと伝えた。

一方、反体制系サイトのノース・プレスは、爆発がドローンの爆撃によるものではなく、シリア政府の支配下のユーフラテス川西岸から発射された少なくともロケット弾(あるいはミサイル)8発によるものだと伝えた。

「イランの民兵」とは、シーア派(12イマーム派)宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘する外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。

反体制系サイトのユーフラテス・プレスやドゥラル・シャーミーヤによると、米軍部隊は、グリーン・ヴィレッジ基地への攻撃への対抗措置として、シリア政府の支配下にあるマヤーディーン市近郊の農地などを砲撃した。標的となったのは「イランの民兵」の拠点だという。

なお、シリア人権監視団によると、グリーン・ヴィレッジ基地が攻撃を受ける前日(つまりはイスラエルがシリアを爆撃した当日)、米軍とYPG主体のシリア民主軍は、米軍基地が設置されているCONOCOガス田一帯で、実弾を使用した演習を行っていた。だが、こうした行動が「イランの民兵」の報復を抑止することはなかった。

「イランの民兵」の攻撃に対して、有志連合も米中央軍(CENTCOM)も今のところ声明を出していない。だが、有志連合は10月23日、ツイッターのアカウントを通じて、ダイル・ザウル県で高機動ロケット砲システム(HIMARS)の発射訓練を行ったと発表した。

HIMARSは、米国が8月にウクライナに供与し、ロシア軍にとっての脅威になっていると盛んに喧伝された兵器である。だが、シリアで続くイスラエルの侵犯行為と、その報復として「イランの民兵」が繰り返す米軍基地への攻撃を見る限り、そしてまた、ロシアによるウクライナのエネルギー関連施設への攻撃と、ヘルソン州に対して強められているというウクライナ軍の反転攻勢を見る限り、こうした高価で高性能な兵器がシリアとウクライナでの暴力の応酬を抑止する効果を持っているとは到底言えない。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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