慈善団体として振る舞おうとするシリアのアル=カーイダ:100万ドルを集めて5万世帯を支援すると豪語
シリア北西部のイドリブ県で1月31日、バッシャール・アサド政権の打倒、自由と尊厳をめざすシリア革命の成就をめざすシャーム解放機構のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者がトルコ国境に近い国内避難民(IDPs)キャンプを視察した。
シャーム解放機構とは?
シャーム解放機構はかつてシャームの民のヌスラ戦線を名乗っていた組織。イスラーム国(当時の組織名はイラク・イスラーム国)のシリアにおけるフロント組織として2011年末頃から活動を開始し、2012年半ばまでにはシリアでもっとも有力な反体制派としての地位を揺るぎないものとした。
2013年にイスラーム国と袂を分かったヌスラ戦線は、2014年6月にカリフ制の樹立を宣言し、国際社会最大の脅威として存在を誇示するようになったイスラーム国とは対照的に、シリア革命の担い手と目された自由シリア軍に「なりすます」ことで勢力を伸長していった。ヌスラ戦線は2016年7月、アル=カーイダの許しのもとに、アル=カーイダとの絶縁を宣言した。そして2017年1月、バラク・オバマ米政権が支援していた「穏健な反体制派」と呼ばれる過激派と糾合し、シャーム解放機構となった。
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シャーム解放機構は、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)によって国際テロ組織に指定されている。また、シリア政府、ロシア、イランだけでなく、米国、トルコといった国々もテロ組織に指定している。だが、彼らはイドリブ県中部、ラタキア県北東部、アレッポ県西部、ハマー県北西部からなる反体制派最後の支配地、いわゆる「解放区」(あるいは緊張緩和地帯第1ゾーン)の軍事・治安権限を担い、同地の覇者として君臨している。
IDPsキャンプ視察
シャーム解放機構のジャウラーニー指導者が視察したのは、ダイル・ハッサーン村近郊とサルマダー市近郊のキャンプの2カ所。黒のカジュアル・ウェアーに身を包んで登場したジャウラーニーは避難民らと言葉を交わした。
だが、この視察を好意的に報道するメディアはなかった。反体制系のサイトやSNSでさえ、覆面姿の治安要員に守られながら避難民に接するジャウラーニーを同行カメラマンらが撮影する様子を、「避難民を犠牲にして自らを売り出そうとしている」などと批判した。また、シリア北西部で今も散発的に続くシリア軍と反体制派の戦闘への関心を逸らし、国際テロ組織としての正体を隠そうとする宣伝活動だとみなす者もいた。
緊急会合
ジャウラーニーの視察後、解放区自治局を名乗る組織がイドリブ県北部(正確な場所は不明)で緊急会合を開き、折からの寒波の被害を受けた住民への支援策について意見を交わしたと発表した。
緊急会合には、ジャウラーニー指導者のほか、同機構が自治を委託するシリア救国内閣のアリー・カッダ首班、同機構に近いシューラー総評議会のムスタファー・ムーサー議長が出席した。カッダもムーサーも会合に先立って、ジャウラーニーに同行し、IDPsキャンプを視察していた。
解放区自治局は2月1日に声明を出し、会合の内容を明らかにした。
また、シューラー総評議会もこれと前後して会合の様子を撮影した写真や動画を公開した。
緊急会合では、シリア救国内閣所轄の開発人道問題省なる組織のもとで「あなたがたの暖は我々の義務」と銘打った募金キャンペーンを開始することが発表された。
ジャウラーニーによると、このキャンペーンは、100万ドルを集め、これを開発人道問題省の関係部局を通じて5万世帯の支援に充てることが目的だという。ジャウラーニーはこれに関して次のように述べた。
また、カッダ首班は以下の通り述べた。
ムーサー議長もこう述べた。
乳幼児たちが相次いで凍死
「あなたがたの暖は我々の義務」キャンペーンの開始宣言に合わせるかのように、インターネット上ではイドリブ県のIDPsキャンプでの悲惨な現状を訴える記事や書き込みが相次いだ。シャーム解放機構を支持する論調で知られる反体制系サイトのザマーン・ワスルなどは、生後7日の女児ファーティマ・ムハンマド・イード・マフムードちゃんと生後2カ月のアーミナ・ムハンマド・サラーマちゃんがそれぞれイドリブ県北部のハルブヌーシュ村のIDPsキャンプとシャイフ・バドル村のキャンプで凍死したと伝えるとともに、雪で押しつぶされたテントの映像などを公開した。凍死したとされる乳幼児の画像もフッリーヤ・ネット(https://horrya.net/archives/137313)などで拡散された。
このほかにも、複数の乳幼児が寒さや呼吸器疾患で死亡したとの情報が拡散された。呼吸器疾患は、薪に適さない材料を燃やしたことで発生する有害な煙を吸ったことが原因だという。
ロシアとトルコが交わした停戦合意のもと、「解放区」(あるいは緊張緩和地帯)の処遇が決着せず、テロの温床として温存されている現状、そしてこの現状を抜本的に変えようとしない欧米諸国の姿勢、そして10年に及ぶ紛争で衰弱し、原状回復を実現できないシリア政府の無力――これらこそが、国際テロ組織であるシャーム解放機構が革命の旗手になりすますだけでなく、困窮する住民を救う慈善団体として振る舞うことを許す最大の要因なのである。