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欧米諸国、日本などはOPCW締約国会議で、化学兵器使用疑惑に晒されるシリアの議決権を剥奪

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

議決権剥奪

化学兵器禁止機関(OPCW)は4月21日、オランダのハーグで化学兵器禁止条約(CWC)の実施を監督する第25回締約国会議を開催し、シリアの議決権を剥奪することを定めた決議を賛成多数で可決した。

会議には、締約国193カ国のうち136カ国が出席し、米英仏など46カ国が決議案を提出、欧米諸国、日本など87カ国が賛成票を投じた。これに対して、シリア、ロシア、イランなど15カ国が反対票を投じ、34カ国が棄権した。

OPCW加盟国が議決権を剥奪されるのは、1997年の設立以来初めて。シリアは議決権を失うが、発言権は維持される。ロイター通信によると、決議は「主に象徴的」(largely symbolic)ではあるが、シリア軍による化学兵器使用を断じる欧米諸国が、CWCへの違反は認められないという政治的メッセージをシリア政府に示す意味合いがある。

シリア政府の反応

これを受け、シリアの外務在外居住者省は声明を出し、決意を強い調子で非難すると発表した。

声明は「もっとも凶悪な恐喝、脅迫、嫌がらせ、圧力をもって…決議を採択させようとする米国、英国、フランスといった西側諸国の敵対的な手法をもっとも強い表現で避難する」としたうえで、加盟国の45%しか賛成していない決議は無効だと主張した。

そのうえで、この決議がCWCの遵守プロセスに資せず、OPCWの活動に甚大な損害を与え、それを政治化するものだと指弾した。

OPCWは4月12日、シリアでの化学兵器使用疑惑事件にかかる調査識別チーム(IIT)の第2回報告書(技術事務局覚書S/1943/2021)を公開し、2018年2月4日にイドリブ県サラーキブ市で発生した化学兵器使用疑惑事件でシリア軍が塩素ガスを使用したと断じていた。IITがシリア軍による化学兵器の使用を断定したのは2020年4月8日に公開された第1回報告書に続いて2度目だった。

これに対して、シリア政府は「虚偽報告」だなどと反論、化学兵器の使用を否定している(「シリア:OPCWはシリア軍による化学兵器使用を再び断定、政府はこれを「虚偽報告」と非難し、全面否定」を参照)。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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