シリア北西部で政府軍とアル=カーイダ系の反体制派が激しく交戦、ロシア軍も大規模な爆撃を実施
ロシア・トルコ首脳会談で合意された停戦が発効(3月5日深夜)してから95日目となる6月8日、シリア北西部のイドリブ県とハマー県で、シリア軍と反体制派が激しく交戦、ロシア軍戦闘機も大規模な爆撃を行った。
「信者を煽れ」作戦司令室の侵攻
反体制系サイトのEldorarや英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、シリア軍と交戦したのは、反体制派の一つ「信者を煽れ」作戦司令室。
「信者を煽れ」作戦司令室は、新興のアル=カーイダ系組織であるフッラース・ディーン機構、アンサール・ディーン戦線、アンサール・イスラーム集団からなる武装連合体。反体制派を主導するシリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構やトルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)と一線を画しつつも、各地の戦線で共闘を続けてきた。
「信者を煽れ」作戦司令室は6月8日午前、イドリブ県の県境に位置するハマー県ガーブ平原のファターティラ村とマナーラ村(別名タンジャラ村)に展開するシリア軍の拠点複数カ所を襲撃、激しい戦闘の末、シリア軍兵士多数を殺害するとともに、士官1人を捕捉、両村を制圧した。
ロシア軍戦闘機出撃
これを受けて、ロシア軍戦闘機がラタキア県のフマイミーム基地を出撃、「信者を煽れ」作戦司令室によって制圧されたターティラ村とマナーラ村に加えて、反体制派の支配下にあるハマー県のザクーム村、イドリブ県のファッティーラ村、カンスフラ村、カフル・ウワイド村、マウザラ村、スフーフン村、クーフキーン村、アイン・ラールーズ村などに対して爆撃を実施した。
爆撃は30回以上におよび、住民1人が死亡、多数が負傷した。
ロシア軍の爆撃は、6月3日以来5日ぶり。また、爆撃によって死者が出たのは、3月5日の停戦合意発効以降初めて。
シリア軍の反撃
ロシア軍の爆撃と並行して、シリア軍もファターティラ村、マナーラ村、イドリブ県のルワイハ村、バイニーン村近郊の灌木地帯を砲撃した。
戦闘の末、シリア軍はファターティラ村、マナーラ村を奪還した。
シリア人権監視団によると、この戦闘で、「信者を煽れ」作戦司令室の戦闘員22人(シリア人司令官1人を含む)とシリア軍兵士19人が死亡した。
戦闘再開に備える反体制派とシリア軍
「信者を煽れ」作戦司令室の侵攻は、反体制派とシリア軍の双方が、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路以南での戦闘再開に向けて、増援部隊を派遣するなかで発生した。
シャーム解放機構に近いEbaa Newsは6月8日、シャーム解放機構が装甲車や兵員輸送車など20輌からなる増援部隊をイドリブ県のザーウィヤ山地方に派遣したと伝え、映像や写真を公開していた。
また、シリア人権監視団も、シリア軍が同地の前線に部隊を集結させていると発表していた。
反体制派を「過激派」と呼ぶアラビーヤ・チャンネル
一方、サウジアラビアの衛星テレビ局アラビーヤ・チャンネルは、ハマー県ガーブ平原での戦闘に関して、シリア軍と「過激派」合わせて41人が死亡したと伝えた。
アラビーヤ・チャンネルが反体制派を「過激派」と呼ぶのは異例で、Eldorarは、SNS上ではシリア人活動家らが怒りの声をあげていると伝えた。
なお、Eldorarは「信者を煽れ」作戦司令室を「革命諸派」と呼んでいる。
(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)