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ロシアが89日ぶりにシリア北西部を爆撃、戦闘再燃の兆しか?

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ロシア軍が89日ぶりに爆撃

英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機が6月2日、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が主導する反体制派が支配するシリア北西部に対して爆撃を実施した。

「解放区」と称される同地では、2月にシリア・ロシア軍とトルコ軍・反体制派の戦闘が激化していたが、3月5日にロシアとトルコが停戦に合意して以降、「イランの民兵」所属と思われる無人航空機(ドローン)による爆撃が数件確認されていただけだった。

ロシア軍による爆撃は実に89日ぶりで、停戦発効以降初めてとなった。

シリア人権監視団は、爆撃が、シャーム解放機構やトルコの支援を受ける国民解放戦線(国民軍)、そして新興のアル=カーイダ系組織からなる「信者を煽れ」作戦司令室が活動を続けるラタキア県のカッバーナ村一帯に対して行われたと発表した。

だが、反体制系サイトのEldorarは、シリア駐留ロシア軍司令部が設置されているラタキア県のフマイミーム航空基地を離陸したロシア軍戦闘機3機が、ハマー県北西部とイドリブ県西部を爆撃したと伝えた。

同サイトによると、3機の戦闘機のうち、2機はハマー県との県境に位置するイドリブ県西のザイズーン火力発電所近くを、3機目は、ハマー県ガーブ平原のタッル・アアワル村を爆撃したという。

この地域は、シャーム解放機構のほか、中国新疆ウィグル自治区出身者からなるトルキスタン・イスラーム党が活動拠点としている(「シリアで中国ウィグル系のトルキスタン・イスラーム党が火力発電所を破壊、M4高速道路以南放棄の前兆か?」を参照)。

戦闘再燃の兆し?

イドリブ県では、3月5日の停戦合意に従い、アレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路でのロシア・トルコ軍が、反体制派や一部住民の反対を受けながらも、徐々に合同パトロールの実施区間を拡げている。

だが、高速道路の南側に位置するザーウィヤ山地方では、シャーム解放機構と国民解放戦線が主導する「決戦」作戦司令室とシリア軍の戦闘が激化する兆候が見られる。

シャーム解放機構のアブー・ムハンマド・ジャウラーニー指導者は同地で行ったとされる住民らとの懇談で、近くシリア軍との大規模な戦闘が再発するとの見方を示している(「シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構のジャウラーニー指導者が自らの素性を初めて語る」を参照)。

この言葉に同調するかのように、シャーム解放機構に自治を委託されているシリア救国内閣は5月30日、「解放区」の住民に対して、シリア軍との戦いに備えて各地の作戦司令室を支援するよう呼びかけている。

また、国民解放戦線に所属する武装集団の一つシャームの鷹大隊は、ザーウィヤ山地方を軍事地区に指定、住民の立ち入りを禁止すると発表した。

一方、シリア軍は5月30日、ロシアから最新鋭戦闘機MiG-29複数機の供与を受け、6月1日からシリア領空での訓練を開始すると発表した。

こうした事態に警戒するかのように、トルコ軍はイドリブ県に戦車、自走多連装ロケット砲などを増派、また6月1日にはM4高速道路沿線の要衝で、停戦合意への反対がもっとも強いアリーハー市内に部隊を展開させた。

Facebook(シリア人権監視団)、2020年6月1日
Facebook(シリア人権監視団)、2020年6月1日

新型コロナウイルス感染症対策が一定の効果をあげているなか、シリア国内で戦闘再燃の懸念が高まっている。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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