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シリアのアサド大統領はコロナ禍を受け、2度目となる人民議会(国会)選挙の延期を決定

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2020年5月4日

人民議会選挙再び延期

シリアのバッシャール・アサド大統領は5月7日、2020年政令第121号を施行し、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため、第3期人民議会(国会)選挙の投票日を7月19日に延期することを決定した。

人民議会選挙の投票が延期されるのは2回目。

アサド大統領は3月14日に2020年政令第86号を施行し、4月13日に予定されていた投票日を5月20日に延期していた。

人民議会選挙の仕組み

シリアの人民議会は一院制で、定数は250人、任期は4年。

選挙は、大選挙区完全連記制を採用し、全国を15の選挙区に分け、各選挙区に5~32の定数を振り分け、有権者は自身の選挙区における候補者1名ではなく、定数と同数の候補者を選ぶことができる。

また、現行憲法は「人民議会の少なくとも過半数は労働者と農民でなければならない」(第60条第2項)と定めており、定数のうちの127人が労働者・農民代表(A部門)、123人がその他の人民諸組織の代表(B部門)にあらかじめ割り当てられている。

なお、シリアでは「アラブの春」の波及に伴う混乱のなか、2012年2月に現行憲法が公布されたが、選挙の仕組みは1973年に公布された旧憲法と同じである。

候補者は、同一選挙区内の有力候補者と選挙同盟を結び、「選挙リスト」(la’iha)を有権者に示すことで、より多くの票を獲得しようとする。

これにより、国内最大の政治組織で与党第一党であるバアス党は、連立与党や有力無所属候補と各選挙区において議席を事実上総取りすることができる仕組みになっており、シリアにおける選挙戦は、投票日ではなく、「選挙リスト」作成の段階で、もっとも熾烈に行われることになる。

2012年と2016年が行われた第1期および第2期の人民議会選挙での各党の獲得議席数は以下の通りである(「第10期シリア人民議会選挙(2012年5月)」「第2期(第11期)シリア人民議会選挙(2016年4月)」を参照)。

筆者作成。
筆者作成。
東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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