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トルコが支援する反体制派支配下のシリア北西部でロシアの意向に沿ってM4高速道路の安全確保が進む

青山弘之東京外国語大学 教授
Xinhua Video (You Tube)、2020年3月11日

ロシアとトルコが「作戦の調整」を目的とした常設の連絡チャンネルを開設

ロシア・トゥデイによると、ラタキア県フマイミーム航空基地のシリア駐留ロシア軍司令部に設置されている当事者和解調整センターのオレグ・ジュラフロフ・センター長(少将)は9日、ロシア・トルコによるシリア北西部(イドリブ県)での停戦合意(5日)を受けて、トルコ側との「作戦調整」を目的とした常設連絡チャンネルを開設したと発表した。

トルコ軍がイドリブ県内の監視所から漸進的に重火器撤退を開始

RIAノーヴォスチ通信は10日、ロシア軍筋の話として、トルコ軍がイドリブ県内の監視所から重火器の撤退を漸進的に開始したと伝えた。

監視所は2016年6月から14回にわたり開催されているアスタナ会議での合意に基づいて設置されていた。

この会議は、ロシア、トルコ、イランを保証国とし、反体制派を「合法的な反体制派」と「テロリスト」に峻別、前者とシリア政府を停戦させることを目的としている(拙稿「トルコ軍がシリアに「ヒステリックな攻撃」を加えた理由とロシアの狙い」Newsweek日本版、2020年3月3日を参照)。

トルコ軍増援部隊のシリア進入続く

その一方で、英国を拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、トルコ軍は10日と11日、戦車、装甲車など約170輌をカフル・ルースィーン村(イドリブ県)に違法に設置されている国境通行所からシリア領内に進入させた。

トルコのチャヴシュオール外務大臣がM4高速道路の処遇について言及

トルコのメヴリュト・チャヴシュオール外務大臣は10日、M4高速道路の処遇に関して「街道の南側はロシアの監視下に、北側は我々の監視下に置かれる」と述べた。

M4高速道路は地中海に面するラタキア市とシリア最大の商業都市アレッポ市を結ぶ高速道路で、5日の停戦合意では、沿線に幅約12キロの人道回廊(安全回廊)を設置することが合意されたとされる(拙稿「停戦合意を受けシリアのイドリブ県での爆撃は停止したが、トルコ占領下のラッカ県でトルコ軍兵士3人が爆殺」を参照)。

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トルコのアカル国防大臣「3月15日にM4高速道路沿線でロシアと合同パトロールを開始する」

トルコのフルシ・アカル国防大臣は報道向け声明を出し、「トルコは3月15日にM4高速道路沿線でロシアと合同パトロールを開始することを計画している」と発表した。

発表は、トルコの首都アンカラでのロシア・トルコの軍・治安・外交関係高官会合を受けたもの。

トルコのエルドアン大統領はシリア復興への傘下の可能性を示唆

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、訪問先のブリュッセル(ベルギー)で同行記者らに対して、ハサカ県カーミシュリー市一帯やダイル・ザウル県での石油収入をシリア復興に活用すべきだとロシアのヴラジミール・プーチン大統領に提案したと述べた。

エルドアン大統領の主な発言は以下の通り:

私は、(ダイル・ザウル県とカーミシュリー市一帯での)石油生産を通じて破壊されたシリアの復興を財政的に支援するようプーチン大統領に対して提案した。また、我々はこうした事業に参加する用意があると伝えた。プーチン大統領は「それは可能だ」と答えてくれた。

こうした方針に向けて措置が講じられれば、(ドナルド・)トランプ米大統領にも同様の提案をするだろう。こうすることで、それ(石油)がテロリストに利用されることなく、我々はシリア復興を支援する機会を得ることになる。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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