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ロシア・トルコ首脳はイドリブ県の現状を凍結して停戦することを合意、停戦発効直前にトルコ軍兵士2人死亡

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

ロシアのプーチン大統領とトルコのエルドアン大統領はイドリブ県の現状を凍結して5日深夜から停戦することを合意

ロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が5日にモスクワで首脳会談を行い、イドリブ県情勢への対応について協議した。

6時間におよぶ会談後の共同記者会見で、エルドアン大統領は、ロシアとの見解の同異を確認したとしたうえで、「(5日)深夜より停戦を発効する」と発表する一方、シリア軍によるすべての攻撃に対する報復権を留保すると付言した。

一方、プーチン大統領は、同地の現状を凍結するかたちで停戦することを定めた合同文書を交わしたことを明らかにした。

プーチン大統領は、トルコ側の見解のすべてに同意していないとしながらも、今回は事態の深刻さを踏まえて、合意に至ったと付言した。

そのうえで、シリアの独立、主権、国土統一の原則を遵守し、「テロとの戦い」を継続することを改めて強調するとともに、アスタナ会議の枠組みに沿った活動の継続に関心を示し続けると述べた。

停戦合意に先立ってロシア軍、シリア軍、トルコ軍が駆け込み攻撃

英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機が、イドリブ県のサラーキブ市近郊、アリーハー市近郊、マアッラトミスリーン市近郊、ザーウィヤ山一帯、ハマー県のガーブ平原一帯を爆撃した。

マアッラトミスリーン市近郊の爆撃では、国内避難民(IDPs)7人が死亡した。

SANAによると、シリア軍もイドリブ県のカンスフラ村、カフル・ウワイド村で、トルコ軍の支援を受ける「決戦」作戦司令室に対して集中攻撃を加えるとともに、ハマー県のズィヤーラ町、カストゥーン村、サルマーニーヤ村、タッル・ワースィト村、アンカーウィー村、ダクマーク村、マシーク村を砲撃、「決戦」作戦司令室と交戦した。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダのシャーム解放機構やトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。

対するトルコ軍も砲兵部隊がイドリブ県のタルナバ村、サラーキブ市、ハマー県のドゥワイル村を砲撃し、無人航空機(ドローン)がイドリブ県県南部一帯を爆撃した。

シリア軍の砲撃でトルコ軍兵士5人が新たに死傷

シリア軍も地上部隊がナイラブ村のトルコ軍拠点を砲撃し、トルコ軍兵士2人が死亡した。

ナイラブ村への砲撃は、首脳会談直後に行われたが、停戦は発効していなかった。

これに関して、トルコ国防省は声明を出し、イドリブ県に対するシリア軍の砲撃で新たにトルコ軍兵士2人が死亡、3人が負傷した。

トルコ軍部隊は直ちに抱腹としてシリア軍に対して砲撃を行ったという。

イスラエル軍がレバノン領空を侵犯し、シリア領内をミサイル攻撃、シリア軍がこれを迎撃

国営のシリア・アラブ通信(SANA)は、シリア軍の防空部隊が5日0時30分にパレスチナ北部からレバノンのサイダー市上空を侵犯した航空機(イスラエル軍機)がヒムス県に向けて発射したミサイルを迎撃、これを撃破したと伝えた。

反体制系のEldorarなどによると、イスラエル軍はダマスカス郊外県やダルアー県にあるシリア軍や「イランの民兵」を狙ったという。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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