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トルコの「ヒステリックな攻撃」でシリア軍戦闘機2機撃墜、砲撃はロシア軍基地にも及ぶ

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA、2020年3月1日

トルコのフルシ・アカル国防大臣がイドリブ県に対する「春の盾」作戦が成功裏に進んでいると述べる一方、英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団は、トルコ軍のバイラクタルTB2無人航空機(ドローン)と砲兵部隊が「ヒステリックな攻撃」を加えていると発表した。

シリア軍がトルコ軍無人航空機3機を撃墜

国営のシリア・アラブ通信などは、シリア軍が3月1日、「決戦」作戦司令室を支援するトルコ軍の無人航空機(ドローン)3機を撃墜したと伝えた。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)などからなる武装連合体。

3機のうちうち1機は、「決戦」作戦司令室との交戦が続くイドリブ県のサラーキブ市近郊上空、1機はハマー市上空で撃墜された。残る1機の撃墜場所は明らかにされなかった。

これに先立ち、シリア軍消息筋は、シリア北東部領空、とりわけイドリブ県上空を封鎖し、領空を侵犯するいかなる航空機を敵機として対処し、撃墜し敵対行為を阻止すると発表した。

また、ラタキア県フマイミーム航空基地のシリア駐留ロシア軍司令部に設置されている当事者和解調整センター(ロシア国防省所轄)のオレグ・ジュラフロフ・センター長(少将)は、記者団に対して、「このような状況において、ロシア軍司令部はシリア領空でのトルコ軍の安全を保障できない」と述べていた。

トルコ軍がイドリブ県でシリア軍戦闘機2機を撃墜

これに対して、トルコ軍はイドリブ県でシリア軍戦闘機2機を撃墜した。

シリア軍筋によるとパイロットは無事。

英国に拠点を置く反体制系NGOのシリア人権監視団などによると、撃墜されたのはシリア軍戦闘機Su-24。トルコ空軍所属のF-16戦闘機によって、マアッラト・ヌウマーン市近郊とザーウィヤ山の上空でそれぞれ撃墜されたという。

トルコ軍ドローンの爆撃でシリア軍兵士19人死亡

シリア人権監視団によると、トルコ軍ドローンがイドリブ県ザーウィヤ山一帯のシリア軍拠点やハーミディーヤ航空基地を爆撃し、兵士少なくとも19人が死亡した。

またトルコ国営のアナトリア通信によると、トルコ軍ドローンはアレッポ県のナイラブ航空基地に対しても爆撃を加え、基地を利用不能にしたという。

トルコ軍はロシア軍基地があるアリーマ町を砲撃

トルコ軍はさらに、シリア政府と北・東シリア自治局の支配下にあるアレッポ県マンビジュ市西のアリーマ町を砲撃した。

同地には、シリア軍、人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍傘下のバーブ軍事評議会が展開するほか、ロシア軍の基地があり、砲撃は基地一帯にも及んだ。

「決戦」作戦司令室はイドリブ県、ハマー県の13カ村を奪還

シリア人権監視団や反体制系サイトのEldorarなどによると、トルコ軍のドローンや砲兵部隊の支援を受ける「決戦」作戦司令室が、シリア軍と戦闘の末、イドリブ県県南部のダール・カビーラ村、フライフィル村、カウカバ村、タウィーラ村、カフルムース村、ファッティーラ村、スフーフン村、ハザーリーン村、ハマー県北西部のカーヒラ村、クライディーン村、アンカーウィー村、ダクマーク村、ザクーム村を奪還した。

Step News、2020年3月1日
Step News、2020年3月1日

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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