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シリア軍はトルコの警告を無視してアレッポ県で支配地を拡大、アサド大統領は異例の勝利宣言

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

シリア軍はアレッポ県西部での攻勢を続ける

アレッポ県では、国営のシリア・アラブ通信によると、シリア軍が17日、シャーム解放機構、国民解放戦線などからなる「決戦」作戦司令室と戦闘を続け、バスラトゥーン村、フール村、アンジャーラ村を新たに制圧した。

2月17日の戦況図(Step News Agency、2020年2月17日)
2月17日の戦況図(Step News Agency、2020年2月17日)

シリア軍はトルコ軍監視所が設置されているシャイフ・アキール山を完全制圧

クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いANHAによると、シリア軍はまた、トルコ軍監視所が設置されているシャイフ・アキール山を砲撃、「決戦」作戦司令室との戦闘の末にこれを完全制圧した。

ロシア軍の爆撃で住民死亡

一方、シリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機がアターリブ市、カフル・アンマ村、シャイフ・バラカート山、ダーラ・イッザ市、同市とタルマーニーン村を結ぶ街道沿線一帯、アルハーブ村、カフル・ヌーラーン村、アブザムー町を爆撃し、アブザムー町で子ども1人と女性1人が死亡した。

シリア軍戦闘機もサッルーム村一帯を爆撃した。

ホワイト・ヘルメットは声明を出し、ロシア軍戦闘機がダーラ・イッザ市内のフィルドゥース病院とカナーナ病院を爆撃し、住民多数が負傷したと発表した。

イドリブ県でも戦闘は続き、トルコ軍は2カ所に新たな拠点を設置

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ロシア軍戦闘機がカフルナブル市、ラーミー村、ブサンクール村、アリーハー市、タカード村、シリア軍戦闘機がアリーハー市一帯を爆撃した。

シリア軍地上部隊もダーナー市を砲撃し、住民1人が死亡した。

一方、トルコ軍はサルマダー市とダーナー市の間に位置するバルダクリー村、アリーハー市近くのムウタスィム村に新たな拠点を設置した。

シリア軍が人道回廊を設置し、反体制派支配地域の住民の移動の安全を確保

SANAは、シリア軍と関係機関が、アレッポ県アレッポ市西に位置するミーズナーズ村とイドリブ県サラーキブ市東に位置するムジャイリズ村に「人道回廊」を設置し、反体制派の支配下にあるアレッポ県北西部やイドリブ県からシリア政府支配地域への避難を希望する住民の移動の安全を確保したと伝えた。

アサド大統領が異例の勝利宣言

バッシャール・アサド大統領は、シリア軍がアレッポ市北西郊外一帯を解放したのを受けて、国民向けのテレビ演説を行った。

8分間にわたる演説のなかで、アサド大統領は次のように述べ、異例の勝利宣言を行うとともに、トルコの脅しに屈しない姿勢を示した。

戦いにおける勝利は戦争の勝利を意味しない。これは軍事的な論理において言えることだが…、愛国的な論理において、勝利とは不屈の抵抗の始まりとともに始まるのだ。この論理に基づけば、抵抗の初日においてすら、アレッポは勝利していたし…、シリアは勝利していた…。我々みなが恐怖に打ち勝っていたのだ。

シリア軍は愛国的な義務を怠ることなく、国民のための軍であり続ける。

戦いのなかで国民と一つになった軍が勝利しなかったことは歴史上一度もない…。我々がアレッポ市をはじめとするシリアの都市で見てきたものがまさにそれた。

北からやって来る空疎な音の泡を尻目に、イドリブ県での戦いを続ける…。シリア全土を解放する戦いを続け、テロを根絶し、安定を実現する。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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