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シリアで新たな化学兵器攻撃か?

青山弘之東京外国語大学 教授
SANA, November 24, 2018

11月24日晩、シリアで新たな化学兵器が行われたと報じられた。攻撃は反体制派によるものなのか、シリア政府による自作自演なのか?

シリア政府側の報道

シリアの国営通信(SANA)は、「テロ組織」(反体制武装集団のこと)が24日(土曜日)晩、同国最大の商業都市アレッポ市のハーリディーヤ地区、ナイル通り地区、ザフラー協会地区に対して有毒ガスを装填した砲弾で攻撃を加え、多数の市民が呼吸困難などの症状を訴え、市内の病院に搬送されたと伝えた。

ラーズィー病院やアレッポ大学病院によると、搬送された市民は、女性、子供、老人など107人で、アレッポ県のズィヤード・ハーッジ・ターハー医療局長は、患者の症状から塩素ガスが攻撃で使用された可能性が高いとの見方を示している。

アレッポ県のフサイン・ディヤーブ県知事は、「テロ組織」が有毒ガスを保有していることが改めて確認されたと述べ、国際社会に対して、市民を守るため責任ある対応をとるよう呼びかけた。

なお、SANAによると、この攻撃に対して、シリア軍は反撃を加え、テロリスト側に甚大な被害を与えたという。

PYDに近いメディアの報道

シリア北西部を実行支配するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)に近いANHAも、アレッポ市の西に位置するマアッラト・アルティーク村とカフルハムラー村に展開する「トルコの配下にある傭兵」(反体制武装集団のこと)による砲撃で、41人が呼吸困難を訴え、うち2人が重態だと報じた。

反体制系メディア、反体制武装集団の反応

これに対して、反体制系サイトのオリエント・ニュースは、反体制派による有毒ガス攻撃が作り話だと反論した。

同じく反体制系サイトの「アレッポの門」も、某医療筋の話として、ラーズィー病院とアレッポ大学病院のいずれにも有毒ガスによると見られる呼吸困難の症状を訴えた患者は搬送されていないと伝えた。

Orient News, November 24, 2018
Orient News, November 24, 2018

トルコの庇護を受け、イドリブ県で活動を続ける国民解放戦線の司令官の一人アブドゥッサラーム・アブドゥッラッザーク氏は、「アサド軍は、塩素ガスでアレッポ市の複数の地区が砲撃されたというウソを広めようとしている」と攻撃そのものを否定した。

また、アレッポ市内で活動を続けているという「ザフラー協会作戦司令室」なるグループは、オリエント・ニュースに対して「塩素ガスであれ、化学兵器であれ、犯罪者政権が広めようとしている報道内容を断固否定する…。アサド政権によって繰り返されるこの手のインチキやウソには慣れてしまった」としたうえで、「反体制諸派に対する今後の行為を正当化するために政権が行っている情報戦の一環」と反論した。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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