イスラエルはシリアでイスラーム国を支援しているのか?:珍しくない「テロとの戦い」からの逸脱

(写真:ロイター/アフロ)

 イスラエル軍は7月24日、ゴラン高原南部の領空を侵犯したシリア軍戦闘機1機をパトリオット・ミサイルで撃墜した。声明によると、イスラエル軍は、ヒムス県中部のタイフール航空基地(T4航空基地)を離陸した直後からこの戦闘機を捕捉し、領空に2キロ侵入したために、ミサイル2発を発射したという。

 一方、シリア軍は領空侵犯を否定、イスラエルの攻撃を厳しく非難した。軍消息筋は、ダルアー県南西端のヤルムーク川河畔地帯上空で撃墜されたとしたうえで、「戦闘機はシリア領であるゴラン高原上空にすら進入しておらず、シリア領空で狙われた」と反論した。

 撃墜された戦闘機の墜落地点やパイロットの消息について、イスラエル軍報道官は「承知していない」と述べたが、シリア軍は1人が死亡したと発表した。

異なる「領空」の意味

 イスラエルとシリアにとって「領空」の意味は異なる。イスラエルは、1967年の第3次中東戦争でゴラン高原をシリアから奪取、81年に一方的に併合を宣言した。だが、シリア、そして国際社会は併合を認めておらず、占領地上空は依然としてシリア領空である。

 なお、同地には、第4次中東戦争勃発の翌年にあたる1974年に交わされた兵力引き離し協定(国連安保理決議第350号)に基づき、兵力引き離し地域(AOS)が設置され、国際連合兵力引き離し監視軍(UNDOF)が展開、シリア軍(そしてもちろんイスラエル軍)の進駐は認められていない。

ゴラン高原地図(出所:http://www.un.org/)
ゴラン高原地図(出所:http://www.un.org/)

「テロとの戦い」を続けるシリア軍

 撃墜されたシリア軍戦闘機は、ヤルムーク川河畔地帯でイスラーム国に忠誠を誓うハーリド・ブン・ワリード軍の拠点に対する爆撃を行っており、「テロとの戦い」の最中だった。

ハーリド・ブン・ワリード軍の支配地域(出所:https://syria.liveuamap.com/)
ハーリド・ブン・ワリード軍の支配地域(出所:https://syria.liveuamap.com/)

 ハーリド・ブン・ワリード軍は、自由シリア軍が「進化」して、2016年に5月に結成された組織だ。その前身であるヤルムーク殉教者旅団は、自由シリア軍諸派(南部戦線所属組織)の一つで、2013年5月にUNDOFのフィリピン軍21人を身代金目当てに拉致したことで知られる。

 ヤルムーク殉教者旅団は、シリアのアル=カーイダであるシャームの民のヌスラ戦線(現在のシャーム解放委員会)との対立を激化させ、2015年4月にヌスラ戦線と対立関係にあったイスラーム国に忠誠を誓った。その後、2016年5月に、イスラーム国とつながりがあるとされるジハード軍やイスラーム・ムサンナー運動と統合、ハーリド・ブン・ワリード軍を名乗るようになった。

ヤルムーク殉教者旅団の当初のエンブレム(https://www.assakina.com/, November 11, 2016)
ヤルムーク殉教者旅団の当初のエンブレム(https://www.assakina.com/, November 11, 2016)
イスラーム国に忠誠を誓って以降のヤルムーク殉教者旅団のエンブレム(https://www.al-masdar.net/, November 28, 2016)
イスラーム国に忠誠を誓って以降のヤルムーク殉教者旅団のエンブレム(https://www.al-masdar.net/, November 28, 2016)
ハーリド・ブン・ワリード軍のエンブレム(右上)が付された声明(https://www.baladi-news.com/, August 14, 2017)
ハーリド・ブン・ワリード軍のエンブレム(右上)が付された声明(https://www.baladi-news.com/, August 14, 2017)

反体制派もシリア軍による「テロとの戦い」に参加

 ハーリド・ブン・ワリード軍の支配地域への攻勢は、ダルアー県とクナイトラ県で活動を続けてきた反体制派がシリア政府との停戦に応じるのと並行して激しさを増した。7月11日には、ロシア軍が同地を初めて爆撃、シリア軍も爆撃・砲撃に加えて、地上部隊を投入した。それだけでなく、革命軍、スンナ青年旅団、クナイトラ軍事評議会といった反体制武装集団も、ハーリド・ブン・ワリード軍に対する「テロとの戦い」に参加した。

 このうちスンナ青年旅団は「ダルアーのカエル」の異名で知られるアフマド・アウダが率いる武装集団で、シリア政府と停戦(和解)した際、シリア軍第5軍団に従軍する旨合意していた。同軍団は2016年11月に新設された部隊で、志願者より構成され、既存の部隊、予備部隊、そして「イランの民兵」とともにシリア全土における治安と安定の回復をめざすため、テロを掃討することを任務とする。

シリア政府によるイスラエル批判

 イスラエルは、シリア軍を牽制するかのような行動を繰り返した。7月11日と13日、シリア軍の無人航空機が領空侵犯したとして、パトリオット・ミサイルで撃破、クナイトラ県内のシリア軍拠点複数カ所を爆撃した。さらに23日には、ハーリド・ブン・ワリード軍支配地域にシリア軍が砲撃を激化させたことへの予防的措置として、地対地ミサイル防衛システム「ダビデの投石器」を初めて作動させ、ミサイル2発を発射した。

 シリア軍戦闘機はこうした流れのなかで撃墜された。

 ムンズィル・ムンズィル国連シリア副代表は、西側諸国による22日のホワイト・ヘルメット救出作戦(拙稿「特別扱いされるホワイト・ヘルメット:シリア内戦をめぐる西側諸国の欺瞞」を参照)と結びつけるかたちで、イスラエルの攻撃を厳しく批判した。

イスラエルとテロ組織との強い結びつき、そしてテロ支援を改めて明らかにした事件だ…。この強い結びつきは、一部外国の支援を受けて、テロ組織であるホワイト・ヘルメットのメンバー数百人をシリア南部からヨルダンに脱出させたことでも明らかだ…。イスラエルは占領下のゴラン高原に入植を続け、抑圧、人種差別政策を行い、天然資源を略奪、シリア人を拉致している…。イスラエルは、同地や兵力引き離し地域でイスラーム国やヌスラ戦線と協力関係にある。

出典:https://www.sana.sy/, July 24, 2018

シリア内戦への干渉の原動力

 この批判は、ハーリド・ブン・ワリード軍やアル=カーイダ系組織がイスラエルと一度も戦火を交えたことがないという事実、そして彼らが「人道支援」の名のもとにイスラエルから事実上の軍事支援を受けてきたという事実を踏まえると、的を射たものだとも言える。だが、イスラエルにはそうする理由があるということを看過すべきでない。

 シリア政府が兵力引き離し地域への実効支配を回復することが、シリア軍(そしてそれと共闘する「イランの民兵」)の同地への進駐をもたらしかねないことへの警戒感が理由だ。なぜなら、1974年以降、同地への展開を認められていなかったシリア軍が停戦ライン(A-Line)に迫れば、その軍事的プレゼンスを前に心理戦を余儀なくされることは必至だからだ。シリア軍が、大破した戦車を兵力引き離し地域に並べ、その砲身を占領地に向けてイスラエルを威嚇していたというのは有名な話だ。

炎上するシリア軍戦車(出所:https://www.alsouria.net/, November 19, 2015)
炎上するシリア軍戦車(出所:https://www.alsouria.net/, November 19, 2015)

 イスラエルは、シリア南西部での反体制派支配地域をめぐるロシアとの協議のなかで、兵力引き離し地域の維持を強く主張、ロシアはこれを認めたとされている。にもかかわらず、シリア軍は――意図的、あるいは不意に――、イスラエルとロシアの合意を反故にするような動きを繰り返している。こうした行為を抑止し、安全保障を確保しようとすることは、主権国家であれば当然のことだ。

 逆に、シリア政府は、イスラエルの目と鼻の先で「テロとの戦い」を敢行することで不安を煽り、自らが事実上の勝者となったシリア内戦にイスラエルを巻き込もうとしているかのようだ。そうすることで、シリア国内の武力紛争に占領・侵略者対解放者という対立の図式を持ち込み、統治の正統性を高め、反体制派への攻勢を強められると踏んでいるからだ。

珍しくない「テロとの戦い」からの逸脱

 とはいえ、イスラーム国への側面支援と受けとられかねない攻撃は、二つの点で珍しいことではない。

 一つは、イスラエルが、これまでにも度々シリアへの侵犯行為を繰り返してきたという点においてだ。イスラエルの対シリア政策にとって、人権、主権、テロとの戦いといったシリア内戦の主要なアジェンダ(正義)は意味をなしておらず、重要なのは国益である。

 もう一つは、シリアに軍事介入しているすべての国が、「テロとの戦い」の論理に従って自らを律することなど決してないという点においてである。有志連合を主導する米国は、ダイル・ザウル県、ヒムス県南東部(タンフ国境通行所一帯)、ハサカ県に進軍を試みるシリア軍を再三にわたって爆撃している。ロシア、そしてシリア政府にしても、「テロとの戦い」と称して、アル=カーイダと結託する反体制派を抑圧してきた。「テロとの戦い」からの逸脱によって犠牲となっているのは、いつも一般市民である。

 こうした一連の逸脱は、安全保障、自衛権などをもって自己正当化されている。そして、シリア内戦に干渉してきた当事者たちを突き動かしてきたのは、自らが掲げてきた正義ではなく、国益なのである。