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米英仏のシリア攻撃の根拠となったドゥーマー市での化学兵器攻撃で化学兵器は使用されなかったのか?

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

化学兵器機関(OPWC)は6日(金曜日)、4月7日に東グータ地方ドゥーマー市(ダマスカス郊外県)で発生し、13日の米英仏によるシリア爆撃の根拠となった化学兵器攻撃疑惑事件に関する事実調査の中間報告書を発表した。

OPCWの声明の内容は以下の通り:

ハーグ、オランダ――2018年7月6日――OPCWの事実調査団(FFM)は、2018年4月7日にシリアのドゥーマーで発生したとされる化学兵器使用事件に関して、現時点までに行われたFFM調査の中間報告書を発表した。

FFMは事件が発生したとされるドゥーマー市内の現場で、環境サンプルを収集、複数の目撃者にインタビューを行うとともに、データ収集を行った。FFMチームはまた、隣国(国名は明示せず)でも、生物学的サンプル、環境サンプルを収集、目撃者に対するインタビューを行った。

OPCW指定の実験施設で、優先順にサンプル分析を行った結果、有機リン系神経剤、あるいはその分解産物は、環境サンプルおよび被害者とされる検体から採取された血漿サンプルからは検出されなかった2カ所で採取されたサンプルから、さまざまな有機塩素系化学物質が爆発物の残骸とともに発見され、分析が続けられている。これらの結果の意義を確定するためのFFMチームの作業は現在も継続中である。FFMチームは最終結論に達するまで作業を続ける。

FFMはまた、2016年10月30日にシリアのハムダーニーヤ地区(アレッポ市)と2016年11月13日にカルム・タッラーブ地区(アレッポ市)で発生したとされる化学兵器使用事件についての報告書を2018年7月2日に発表した。入手・分析された情報、インタビューによって得られた話、実験施設での分析結果から、FFMは、ハムダーニーヤ近隣地域とカルム・タッラーブ地区において発生した事件で特定の化学物質が兵器として使用されたか否かを断定することはできなかった。FFMは、報告された事件の被害にあった人々がおそらく、何らかの持続性のない刺激物質を浴びたと付言する。

ドゥーマー市、ハムダーニーヤ地区、カルム・タッラーブ地区、で発生したとされる化学兵器使用、FFMの報告書は、化学兵器禁止条約(CWC)の締約国に共有された。報告書はまた、国連事務総長を通じて安全保障理事会に回付された。

https://www.opcw.org/
https://www.opcw.org/

ドゥーマー市での化学兵器使用疑惑事件をめぐっては、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放委員会(シャームの民のヌスラ戦線)などからなる反体制派支配地域で救援活動を行っているとされるホワイト・ヘルメットが、インターネットを通じて事件現場の画像や映像を公開した。

米国はホワイト・ヘルメットなどの情報をもとに、シリア軍が同地で化学兵器を使用したと断定し、英国、フランスとともに13日にシリアの複数カ所に対してミサイル攻撃を敢行した。

一方、シリア政府、ロシアは、事件がホワイト・ヘルメットの偽作で、化学兵器は使用されていないと反論、4月26日にオランダのハーグにあるOPCW本部に、ホワイト・ヘルメットが配信した映像に映っていた住民を招聘し、ホワイト・ヘルメットの主張を覆す記者会見を行った。

なお、事件をめぐっては、40人以上とされる犠牲者の遺体が発見されていないなど不可解な点が多いほか、シリア政府の支配下に復帰したドゥーマー市で証拠隠滅や捏造が行われたとの指摘もなされている。

事件の詳細の謎については、拙稿「ドゥーマー市での化学兵器使用疑惑事件をめぐって利用され続けるシリアの子供たち」「シリア化学兵器(塩素ガス)使用疑惑事件と米英仏の攻撃をめぐる“謎”」を参照されたい。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリア地震被災者支援キャンペーン「サダーカ・イニシアチブ」(https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』などがある。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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