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恐竜みたいな迫力なのに擬態の名手ってどういうこと?=アオシャク幼虫

天野和利時事通信社・昆虫記者
アップにすると恐竜ステゴザウルスのようなカギバアオシャク幼虫

 アオシャクの仲間は、成虫も幼虫も人気が高い。成虫は、緑色のきれいな蛾で、幼虫は擬態の名手が多いからだ。昆虫記者も目を皿のようにして、アオシャクの幼虫を探しているのだが、見つからない。やつらの方が一枚上手で、昆虫記者は恐らく、擬態に騙され続けているのだろう。

 しかし、今年ついに、やつらの擬態を見破った。と言っても、見つけたのはたった1匹だ。カギバアオシャクではないかと思う(羽化してカギバアオシャクと確認)。アラカシの新芽に擬態していたのだが、かなり大きく成長した段階だったので、擬態のレベルはそれほど高くなかった。それでも、なお見事な擬態だと思う。

アラカシの新芽に擬態していたカギバアオシャク幼虫
アラカシの新芽に擬態していたカギバアオシャク幼虫

 アオシャクの幼虫の擬態の中で一番巧妙なのは、冬場の姿だ。木々の冬芽にそっくりな姿で、冬芽にへばり付くように隠れているらしい。「らしい」と言うのは、昆虫記者がまだ見つけたことがないからだ(いつか見つけてやるから覚悟しとけ)。

 今回幼虫を見つけたのは春。春の擬態は冬の擬態ほどレベルが高くないが、それでも見事なものだ。背中に多数の突起を備えた姿は、若葉へと変わりつつあるアラカシの新芽にそっくりだ。

 幼虫が脱皮して大きくなるにつれて、背中の突起も大きくなる。それと同時にアラカシの新芽も棘のような新葉を伸ばし始める。そのタイミングの一致も、これまた見事だ。

アラカシの冬芽の隣にいるカギバアオシャク幼虫。冬芽擬態には大きくなりすぎのようだ。
アラカシの冬芽の隣にいるカギバアオシャク幼虫。冬芽擬態には大きくなりすぎのようだ。

ただのアラカシの新芽。カギバアオシャク幼虫と瓜二つだ。
ただのアラカシの新芽。カギバアオシャク幼虫と瓜二つだ。

カギバアオシャク幼虫の背景にアラカシの新芽を置いてみた。見事な擬態になっている。
カギバアオシャク幼虫の背景にアラカシの新芽を置いてみた。見事な擬態になっている。

 大きな突起を持つ幼虫を大写しにすると、まるで恐竜のステゴザウルスのような迫力なのだが、これが木々の新芽付近にいると、巧妙な擬態になるから不思議だ。

 たとえ1匹だけでも、アオシャク系の幼虫を今年見つけられた成果は大きい。1匹見つければ、勘が鋭くなり、その後の捜索は容易になるからだ。

 来年こそは、冬芽に擬態中のアオシャク系の幼虫を見つけ出したいものだ。擬態を暴くのは、虫好きの楽しみの1つ。虫の擬態が見事であればあるほど、擬態を暴きたいという情熱は燃え上がる。

カギバアオシャク幼虫を正面から見ると、背中の恐竜風の突起が際立つ。
カギバアオシャク幼虫を正面から見ると、背中の恐竜風の突起が際立つ。

先日羽化したカギバアオシャク。美しい蛾トップ10に入りそうなデザインだ。
先日羽化したカギバアオシャク。美しい蛾トップ10に入りそうなデザインだ。

 虫にとっての大敵は捕食者である鳥だ。虫の擬態は、捕食者との戦いなのだが、虫好きの人間との戦いでもある。鳥と違って人間には高度な知恵と、情報収集能力がある。いつまでも虫に騙され続けてはいないのだ。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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