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オノ・ヨーコ展覧会でノーベル平和センター新装開館 分断と絶望の時代に「対話」を提示

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
新装開店した新ノーベル平和センター 筆者撮影

10日のノーベル平和賞授与式を控えて、1月より改修工事をしていたノーベル平和センターが新装開館となった。

新展覧会は平和活動家でアーティストでもあるオノ・ヨーコさんの「PEACE is POWER」。軍縮やジェンダーに基づく暴力との闘いをテーマに、女性であるがゆえに暴力を受けたことのある体験談などが語られる。

来場者に参加を促すインスタレーション

ノーベル平和センターの展示は「写真を見る」「情報を読む」ことになりがちなのだが、「PEACE is POWER」は来場者の「参加型」の傾向が強めだ。ノルウェーではオノ・ヨーコさんはジョン・レノンと共に平和活動にずっと貢献してきた女性であり、商業システムを通さずにアートを創造してきた人物としても知られているとキュレーターであるアスレ・オルセン氏は話した。

インスタレーションのひとつでは、来場者は座って陶器の破片を接着し、壊れたものを静かに修復するよう招かれる 筆者撮影
インスタレーションのひとつでは、来場者は座って陶器の破片を接着し、壊れたものを静かに修復するよう招かれる 筆者撮影

真っ白のテーブルとチェス台では、「黒白の駒」が同じ色になっており、自分と対戦相手の見分けがつかなくなっている 筆者撮影
真っ白のテーブルとチェス台では、「黒白の駒」が同じ色になっており、自分と対戦相手の見分けがつかなくなっている 筆者撮影

ネルソン・マンデラ氏の「座って話すことが最大の武器である」という言葉にインスパイアされた「対話」の新しい展覧会では、過去の受賞者たちの効果的な対話の方法を学び考えることができる 筆者撮影
ネルソン・マンデラ氏の「座って話すことが最大の武器である」という言葉にインスパイアされた「対話」の新しい展覧会では、過去の受賞者たちの効果的な対話の方法を学び考えることができる 筆者撮影

「PEACE is POWER」と「対話」の両展覧会は、分断・キャンセルカルチャー・ヘイトスピーチに溢れた現代社会で、発言にためらう人が増えるなか、「不可能を可能にする対話」について考えらせる内容となっている。

「ノーベル平和センターではもともと対話プログラムを提供しており、子どもの教材として教育現場からの需要が高かったのですがが、最近では企業からの関心も高い」と館長のシェスティ・フログスタッドさんは説明した。

シェスティ・フログスタッド館長 筆者撮影
シェスティ・フログスタッド館長 筆者撮影

絶望的なニュースが多い中、「ノーベル平和センターに今できることはなにか」と館長にインタビューで聞いた。

「戸惑いと絶望に溢れた今の世界では平和のために毎日闘っている人の存在を感じることが重要になります。そのような先駆者が何人もいたことを、私たちは歴史を通して知っています。中東でも今平和のために交渉を続けている人々がいます。ノーベル平和センターにできることは、世界を平和にするポジティブな変化を起こした人々の物語を語り、共に話し合うための形を提案することです」

イスラエルとパレスチナの間の解決を願っていたともしても、「日本で市民が声を出すことで何かが変わると思うか」という質問に対しては、

「私たちひとりひとりが平和について話すことは権力者にとっても重要な意味をもらたらします。市民社会や市民運動は政治を変えることができます。社会と未来に何を期待しているのかを誰もが口にすることには、間違いなく大きな可能性が詰まっています」と館長は答えた。

12日からは、毎年恒例の平和賞展「WOMAN - LIFE - FREEDOM」が始まる予定だ。

今年の受賞者に選ばれたイランの人権活動家、ナルゲス・モハンマディ氏の写真も同センターには飾られている 筆者撮影
今年の受賞者に選ばれたイランの人権活動家、ナルゲス・モハンマディ氏の写真も同センターには飾られている 筆者撮影

新しいミュージアムショップの天井には古い建築材料が再利用された 筆者撮影
新しいミュージアムショップの天井には古い建築材料が再利用された 筆者撮影

「平和賞はなぜノルウェー?」などよくある質問をまとめた入口付近の展示 筆者撮影
「平和賞はなぜノルウェー?」などよくある質問をまとめた入口付近の展示 筆者撮影

「PEACE is POWER」が催されている2階 筆者撮影
「PEACE is POWER」が催されている2階 筆者撮影

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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