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ムンク×多様性×音楽×挑戦 オスロ・ジャズフェスのめくるめく世界

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
TRONDHEIM JAZZORKESTER&GURLSのライブ 筆者撮影

ノルウェーの8月は毎年いくつもの音楽祭が続く「文化の月」といえる。首都オスロで開催中の祭典オスロ・ジャズ・フェスティバルのプログラムに目を通しながら、今年はどんな音を聞こうか考える。

15日に新ムンク美術館での「TRONDHEIM JAZZORKESTER & GURLS」に足を運んだ。

新ムンク美術館には音響設備の揃った会場もあり、コンサートなどのさまざまな文化行事の場ともなっている 筆者撮影
新ムンク美術館には音響設備の揃った会場もあり、コンサートなどのさまざまな文化行事の場ともなっている 筆者撮影

TRONDHEIM JAZZORKESTERは現地では知られた存在だ。創造的な音が連続して続き、ライブの度に毎度異なる体験をさせてくれる。このバンドの名前を目にすると、「この日はいい音楽体験ができるな」とわくわくする。

もはや「ジャズ」という世界観から飛び出したような音を連続させる彼らは、2000年の創設以降、ジャズだけではない様々なジャンルの音楽祭に招待されている。

Kristoffer LoやJenny Hvalなどの有名アーティストとコラボする複数のプロジェクトがあるのだが、今回はプロジェクトのひとつであるGURLSとの共作だ。

8月13~19日に開催中のオスロ・ジャズ・フェスティバル 筆者撮影
8月13~19日に開催中のオスロ・ジャズ・フェスティバル 筆者撮影

2013年に始まったトリオは、サックス奏者Hanna Paulsberg、ベーシストのEllen Andrea Wang、ボーカルにMarianna Sangitaで構成された女性チームだ。

アルバム『Run boy, run』はノルウェーのグラミー賞ともいわれるスペルマン賞「ベスト・ジャズアルバム」カテゴリーを2018年に受賞している。

GURLSのライブは初めてだったが、筆者は帰宅してからもストリーミングサービスSpotifyでGURLSの曲をまた聞いていた。ライブで新しいお気に入りのバンドを発見した時の嬉しさは大きい。

ムンクの絵画×音楽で自分のストーリーに浸る

カール・ヨハン通り沿いにあるアウラ講堂。オスロ観光をする際に必ず目にするであろう場所にある 筆者撮影
カール・ヨハン通り沿いにあるアウラ講堂。オスロ観光をする際に必ず目にするであろう場所にある 筆者撮影

ノルウェーの顔ともいえる画家エドヴァルド・ムンクの絵画を見ることができるスポットはオスロに数か所ある。オスロ大学のアウラ講堂もそのひとつだ。『太陽』をはじめとする11作品が壁画に飾られた広間はイベント会場ともなっており、ジャズフェスで定番のコンサート会場でもある。

ノルウェーのジャズシンガー、Solveig Slettahjellの美しい歌声が響く 筆者撮影
ノルウェーのジャズシンガー、Solveig Slettahjellの美しい歌声が響く 筆者撮影

Solveig Slettahjellの歌声を聞きながら、私は11のムンクの絵をじっと見つめていた。絵を見ながら音楽を聞くという珍しい体験は、私の創造力を意外なほどに膨らませたのだった。

「まるであの男性たちも音楽に聞きほれているかのようだ」なんて考えながら 筆者撮影
「まるであの男性たちも音楽に聞きほれているかのようだ」なんて考えながら 筆者撮影

オスロ・ジャズフェスは若いタレントの育成や女性の後押しにも力を入れている。文化業界でセクハラ・いじめ・差別などの対策が出来た「安全な音楽現場である」ことを認定するバランセクンスト(Balansekunst)団体による「バランセメルケ」(Balansemerket)証明を保持している。

ANDREAS ROYSUM ENSEMBLEは実験的なパフォーマンスで、ジャズ、現代音楽、他国の伝統音楽の音を融合させ、新しい空間を造り出していた 筆者撮影 
ANDREAS ROYSUM ENSEMBLEは実験的なパフォーマンスで、ジャズ、現代音楽、他国の伝統音楽の音を融合させ、新しい空間を造り出していた 筆者撮影 

顔触れからも分かるように、若い世代や女性の姿が多いノルウェーのジャズ風景はいつも元気をくれる。

コロナ禍で家でオンラインで音楽や映画を見ていた時期が長かった分、ライブ会場で生の音楽体験ができることの有難みを改めて感じるのであった。自分が好きと感じる新しい音探しの旅がまた始まることに、わくわくしている。

大通りカール・ヨハンではジャズフェス開催中であることを祝う旗が出ている 筆者撮影
大通りカール・ヨハンではジャズフェス開催中であることを祝う旗が出ている 筆者撮影

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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