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デコ活の参考に「コペンハーゲンの教訓10」北欧で話し合われた、これからの暮らし

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
湾岸で釣りを楽しむデンマークの家族。首都でも自然との距離が近い 筆者撮影

7月初頭、北欧デンマークの首都コペンハーゲンには世界各地から建築や都市開発の専門家が集まり、国際会議UIAが開催されていた。

ユネスコ世界建築首都に任命されたコペンハーゲンでは、年内を通じて様々なイベントが開催され、現地を賑わせている。

「持続可能な未来、だれひとり取り残さない」をテーマとした国際会議の会場 筆者撮影
「持続可能な未来、だれひとり取り残さない」をテーマとした国際会議の会場 筆者撮影

国際会議UIAには135か国から6000人以上が参加し、150のセッション、250の科学論文が発表され、400以上のスピーカーが集まった。

多くの企業が会場で展示をする際、再利用しやすい設置となるように木材の使用が目立った 筆者撮影
多くの企業が会場で展示をする際、再利用しやすい設置となるように木材の使用が目立った 筆者撮影

議題は建築、都市開発、生物の多様性、社会インクルージョン、持続可能な暮らしと多岐に及んだ。

「最終的に、この会議での学びはなんだったのか?」

生物多様性や気候レジリエンス強化のためにも、都市に自然を取り込もうという呼びかけ。会場には実際の木々や土が展示された 筆者撮影
生物多様性や気候レジリエンス強化のためにも、都市に自然を取り込もうという呼びかけ。会場には実際の木々や土が展示された 筆者撮影

未来環境を創造するために、急いで取り組ま中ればいけない先進的なアクションは、「コペンハーゲンの教訓」(The Copenhagen Lessons)と題されて最終日に発表された。

コペンハーゲンの教訓

  1. すべての人々の尊厳と主体性は建築の基本であり、排除に美なし
  2. 建築環境を建設、計画、開発する際には、取り残される危険性のある人々にまず場所を提供しなければなりません
  3. まず最初に既存の建築物を再利用しなければなりません
  4. 新しい開発によって、緑地が消えてはなりません
  5. 自然の生態系と食糧生産は、建築物の状況に関係なく維持されなければなりません
  6. 再利用が可能な場合は、建設に未使用のバージン鉱物を使用してはなりません
  7. 建設中に廃棄物を発生させず、建設後にも廃棄物を遺さないこと
  8. 建設資材を調達する際は、再生可能な地元の資材を優先します
  9. 私たちが建設するすべてのものにおいて、二酸化炭素の吸収量がカーボンフットプリントを上回らなければなりません
  10. 建築環境を開発、計画、建設する際には、あらゆる活動が水の生態系ときれいな水の供給に良い影響を与えなければなりません

「コペンハーゲンの教訓」は、国連の17の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために、建築環境を迅速かつ抜本的に変革するための10の原則で構成されている。

デンマークの首都コペンハーゲンの街を歩いていて驚くのは、風車が視界に入ることだ。さすが風力発電の国だとカルチャーショックを受ける 筆者撮影
デンマークの首都コペンハーゲンの街を歩いていて驚くのは、風車が視界に入ることだ。さすが風力発電の国だとカルチャーショックを受ける 筆者撮影

国際会議では、「建築的な解決策はすでにここにあり、建築は持続可能なコミュニティと生活の質の向上に貢献する」ことが確認された形となった。実は、このように「すでに解決策はある」というのは、様々な北欧の現場では言われていることだ。

屋根の上にスキー場があるゴミ処理施設「コペンヒル」は、今や世界中から企業や政治家が視察にくる有名なスポット。コペンヒルもコペンハーゲンの街の至る所から視界に入る位置にある 筆者撮影
屋根の上にスキー場があるゴミ処理施設「コペンヒル」は、今や世界中から企業や政治家が視察にくる有名なスポット。コペンヒルもコペンハーゲンの街の至る所から視界に入る位置にある 筆者撮影

問題は「政策が追い付いていない」こと。

持続可能な社会変換のための解決策はあるが、それに必要な改正や助成などにおいて、政治家の行動が遅いということだ。実際に、国際会議の多くのセッションでは、政策や政治家とのコミュニケーションの話が持ち上がっていた。

だからこそ、筆者にとっても北欧パビリオンで発せられた「全ての主要政党に良いデザインとは何かをわかってもらう」「私たち建築家は、もっと政治アクティビストになる必要がある」という言葉は印象に残った。

「建築環境は、エネルギーと天然資源の主要な消費者であり、廃棄物の生産者でもある。現在の課題に積極的に関わっており、不平等と公衆衛生の両方に大きな影響を与える可能性がある。建設業界だけで、世界のCO2排出量の40%、廃棄物総量の35%を占めており、早急な対策が求められる」と最終日には改めて警報が発せられた。

デンマーク建築界を代表するビャルケ・インゲルスの設計事務所「BIG」が手掛けたアパート「The Mountain」。山のような設計で、屋上庭園では住民がガーデニングを楽しんでいた 筆者撮影
デンマーク建築界を代表するビャルケ・インゲルスの設計事務所「BIG」が手掛けたアパート「The Mountain」。山のような設計で、屋上庭園では住民がガーデニングを楽しんでいた 筆者撮影

北欧の政治や選挙を取材し続けていると、いかに都市開発や公共建築物が政治的なものであり、問題でもあり解決策でもあることを実感する。

皆さんが北欧のライフスタイルや建築デザインについて考える時、「コペンハーゲンの教訓」を思い出しながら考えてみると、すでに教訓の一部がベースとなった建築物があることにも気が付くかもしれない。

日本の環境省は脱炭素につながる新しい生活のために「デコ活」を提案したばかりだ。国際会議UIAが出した「コペンハーゲンの教訓」や北欧の都市開発は、良き道しるべとなるのではないだろうか。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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