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日本を参考に、デンマーク海藻文化で建築に革命を起こす

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
デンマークで「海藻ガール」と呼ばれているキャサリン・ラーセンさん 筆者撮影

ユネスコ世界建築首都に指定されたデンマークの首都コペンハーゲン、国際会議UIAの会場では、青や緑色のデザインの板の前で来場者がスマホを片手にセルフィー撮影をしていた。

なんと、このセルフィースタンドは「海藻」でできているという。

デンマークで建築家として働くキャサリン・ラーセン(Kathryn Larsen)さんは海藻をベースとした建築素材の開発に携わる28歳だ。

自身の建築事務所Kathryn Larsen Studioで、彼女は多くの素材の研究をしている。そこで関心を持った素材が、デンマークの海で採れる海藻や海草(アマモ)だ。

日本の海藻文化、建築やアートからインスピレーション

世界中から建築家や専門家が集まる国際会議で、海草の種類「ヒバマタ」という日本語の文字が会場で目に付く。右側にあるのは海藻塗料 筆者撮影
世界中から建築家や専門家が集まる国際会議で、海草の種類「ヒバマタ」という日本語の文字が会場で目に付く。右側にあるのは海藻塗料 筆者撮影

他国の海藻・海草の文化にも興味が湧き、日本へと目が向くようになった。若い時は東京や千葉に住んでいたこともあり、デンマーク人の夫も日本語学校に通ったことがある。

日本での滞在中の学びを記録したスケッチブック。このノートは彼女の活動が紹介される際にもよく登場する 筆者撮影
日本での滞在中の学びを記録したスケッチブック。このノートは彼女の活動が紹介される際にもよく登場する 筆者撮影

「デンマークでも建築物に海藻を使う伝統はもともとありました。そこで私は海藻でいろいろと実験をしてみたくなったんです」

「合掌造り」(がっしょうづくり)という日本語がラーセンの口から飛び出したので筆者は驚いた。いたを特長とする民家の建築形式で、デンマークでは中世から続き、デンマークにあるレス島とムン島のみで盛んだそうだ。

頭の中は海藻のことでいっぱい

ラーセンさんが実験中の草葺(くさぶ)き屋根プロジェクト 筆者撮影
ラーセンさんが実験中の草葺(くさぶ)き屋根プロジェクト 筆者撮影

ラーセンさんは海藻をいかに素材として利用できるか考えことに常に夢中だ。海草に取り組んでいると、「海藻ではどうだ」と聞かれることが多くなり、そこでまた好奇心が広がった。調べると日本で海藻は食品だけではなく、糊や手工芸のための道具として使用されていることを知る。

柔らかい海藻バイオプラスチックで作った折り紙の鶴。海藻で作るプラスチックは硬くも柔らかくもすることができる 筆者撮影
柔らかい海藻バイオプラスチックで作った折り紙の鶴。海藻で作るプラスチックは硬くも柔らかくもすることができる 筆者撮影

「海草でできたセルフィースタンド」という珍しい響きに来場者が引き寄せられる

セルフィー板の素材は海藻でできたプラスチック、微細藻類から採取した様々な色をプラスチックに混ぜ合わせることでナチュラルな色が生まれる。

海藻セルフィースタンドの設置は国際会議UIAから依頼された。スタンドは今後も美術館やイベント会場で設置できないか模索中だ。

海草を素材に車いすの舗装用床タイル、貝を素材としたコンクリート

車いすで移動する人のための道路タイルの製造を実験中 筆者撮影
車いすで移動する人のための道路タイルの製造を実験中 筆者撮影

海草を素材とした車いすの舗装用床タイル、バイオプラスチック、さらにバイオ塗料だけではなく、貝を素材としたコンクリート、自然素材のアートインスタレーション作品など、ラーセンさんの研究開発は今も走り続けている。

貝で作ったコンクリート。貝を英語で表現した時の「シェル」から「シェルクリート」と呼ばれている 筆者撮影
貝で作ったコンクリート。貝を英語で表現した時の「シェル」から「シェルクリート」と呼ばれている 筆者撮影

海藻・海草の可能性は無限大

ラーセンさんは海藻という持続性のある素材に大きな未来を見出している。

「デンマークでは食品としての海藻も人気が出てきています。お店に行くと海藻入りの塩や、海草オイルを使用したスナックや料理がありますが、10年前にはこのような現象は起きていませんでした」

「人々は持続性のある素材を探しており、海草ならば育てることも、素材として利用することも簡単です。海藻は腐る可能性もあるので、糊やミネラルを取り出して材料として使うほうがよいでしょう。デンマークの伝統では、海藻を煮て接着剤を作り、塗料に使用していました」

材料はデンマークの海草農家から購入しており、農家から学ぶことはとても多いとも話す。需要性が高い持続可能な建築素材に、海藻は大きな貢献を可能性を秘めている。

現地で「シーウィ―ド・ガール」(海藻ガール)という呼び名までついたラーセンさんの今後の活躍が楽しみだ。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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