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フィンランドの森林ムーブメント 罵倒や脅迫に若き気候活動家はどう対応

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
「森林問題は人を感情的にする」撮影:Kato Metsanen

森林保護の活動家が暴言を浴びるのは、森林や林業がフィンランドの人にとってそれほど特別だからだ。

23歳の環境活動家イーダ・コルホネンさん(Ida Korhonen)はそう感じている。

「感情的」になりやすいテーマだから、人々は活動家に対して「怒る」のだと。

イーダさんは15歳で最初の活動をはじめ、本格的に活動家として動き出したのは17歳だった。

自然団体(Luontoliitto)、グリーンピース、エクスティンクション・レベリオンと、フィンランド拠点で活動する3つの環境団体に所属している。彼女の思いは国内の豊かな森林を守ることにある。

2023年1月にフィンランド北部・コラリにあるAalistunturiの森林を守るためにエクスティンクション・レベリオンの抗議活動に参加したイーダさん 写真:本人提供
2023年1月にフィンランド北部・コラリにあるAalistunturiの森林を守るためにエクスティンクション・レベリオンの抗議活動に参加したイーダさん 写真:本人提供

国土の7割が森林に覆われているフィンランドだが、林業を巡って国内では批判も起きている。詳しくは森林ジャーナリストである田中淳夫さんの記事が参考になるだろう。

フォレストジャーナル「フィンランド林業の光と陰【後編】国内で反対運動? 不振の日本林業は何を学ぶべきか」

「フィンランドの自然が大好きだから」

現在は大学で森林学を学んで4年目。環境活動にも時間がとられるため、大学生活はまだ続きそうだ 撮影:Jonne Sippola
現在は大学で森林学を学んで4年目。環境活動にも時間がとられるため、大学生活はまだ続きそうだ 撮影:Jonne Sippola

「私は森林にフォーカスして活動中です。フィンランドは森林が豊かですが、林業も盛んです。これ以上、生物多様性が失われ、排出量が増えないためにも、持続可能な森林を守りたいんです」

首都ヘルシンキの中央図書館Oodiでのインタビューでイーダさんは語り始めた。

筆者撮影
筆者撮影

「フィンランドでの気候活動といえば気候変動や社会正義が主流ですが、森林はそれほど注目を浴びていませんでした。最近では議論が高まり、森林ムーブメントが生まれています」

「私が所属する3団体には共通点も多いので、共同運動に森林ムーブメントという名前が付けられました。今は私たちの手から森林ムーブメントという言葉は離れて、広く普及しています」

「環境団体は複数ありますが、かつては互いを気にするネガティブな空気がありました。どの団体のアクションや手法がいいかとかを気にしていたんです。今は各団体が協力しているので効率的に運動ができるようになり、若い活動家の増加につながっています」

撮影:Jonne Sippola
撮影:Jonne Sippola

「フィンランドの森林の多くは年齢が若く・人の手で管理されており、残りわずかな自然本来の生物多様性を維持する森林を守りたいんです。私たちが運動をしないと森は守られない」と話すイーダさん。

「一部のフィンランドの企業や市民の間には、生物多様性の損失問題は『どこか別の場所で起きている』感覚で議論を避けようとする傾向があるます。『どこかでそういう問題はあるらしいね。自分たちのせいではない』と。だから国内の意識を変えるために、私たちは活動をしているんです。『問題は熱帯雨林で起きているんじゃない。ここ、フィンランドで起きているんだよ』と」

気候活動家に怒る人々

写真:エクスティンクション・レベリオン提供
写真:エクスティンクション・レベリオン提供

SNSは若者の抗議活動の場のひとつだが、ツイッターやインスタグラムで嫌な言葉を浴びることもある。

「私の少数民族サーミ人の友人はもっとひどい言葉を浴びています。どのような活動をしても、ヘイトをしてくる人はいるんです」

「特に地方に住む高齢男性は怒りますね。私も祖父と不快な会話をしたことがあります」

「活動家はメンタルヘルスを崩す人もおり、問題視されています。燃え尽き症候群になる人もいます」

嫌な言葉もくるけれど、いい言葉もたくさん届く

撮影:Kajo Messanen
撮影:Kajo Messanen

嫌がらせを受けやすい気候活動で、自分自身を守り、前進し続けるための彼女なりのテクニックはあるかと聞いた。

  • 自分を大切にする。自分を大切にすることができなければ、地球を大切にすることもできない
  • ポジティブなコメントに目を向ける
  • 気候活動をすること、アクションを起こすことが、悪化したメンタルヘルスの治療になる
  • 自分の周りにいる信頼できる人や同じパッションを持つ人と時間を過ごす
  • 信頼する人たちに「ちょっと休めば」と言われたら休憩。自分の限界に気が付いてくれる人の存在。自分が安心できる空間をつくる
  • 森の中で時間を過ごす
  • ひとりではなく、活動家たちのコミュニティと共に動く
  • SNSで嫌がらせをしてくるトロールたちのことを冗談にして周囲に話す(でもエネルギーを使うので、この方法は常にはおすすめしない)

気持ちに余裕がある時には、コメントをしてきた人とメッセージを交わし合い、「どうしてそう思うのか」などを聞くこともあるそうだ。

時には「君とは意見が違うけれど、今日が君にとっていい日になるといいな」という言葉をもらい、驚くこともあるとか。

「怒っている人には丁寧に返事をすると、怒るのをやめる人もいます。互いに意見は違ったままですが、相手は怒ることはやめるんです。フィンランド的なカルチャーなのかもしれません」

若者の政治参加を増やす「NO YOUTH NO JAPAN」メンバーも対話に参加。右から代表の能條桃子さん、ヘルシンキ留学中の早稲田大学・菊池莉歩さん、デンマーク留学中の足立あゆみさん 筆者撮影
若者の政治参加を増やす「NO YOUTH NO JAPAN」メンバーも対話に参加。右から代表の能條桃子さん、ヘルシンキ留学中の早稲田大学・菊池莉歩さん、デンマーク留学中の足立あゆみさん 筆者撮影

「森林は感情的になってしまうトピックですしね。私たちの森林やライフスタイルが持続可能ではないと指摘され、脅かされていると感じる人もいるんです。ヴィーガンや乳製品などの議論もそうでしょう。でも相手に『脅かしているわけではない。これ以上自然が破壊されないような方法を探そうとしているだけだ』ということが伝われば、少しずつ同意する人もいます。だって、自然破壊をしたいと思っている人なんていないので」

「でも一部の人は単に意地悪なだけなので、対話しようとしなくてもいいと思います」

「怒っている人って、私が何をしているのか疑問に思って聞きたいだけだったりするんです」

「まずは学校で勉強しな」と大人に言われたら、どう切り返す?

「私はひとりではありません。大きな人のグループの一員として、助けられていると感じます」 撮影:Jonne Sippola
「私はひとりではありません。大きな人のグループの一員として、助けられていると感じます」 撮影:Jonne Sippola

「気候活動よりも学校で勉強を」と言ってくる親戚もいたという。

「『まずは勉強をしてから、内部で変化を起こしていけばいいよ』と言われたこともあります。でもそんな時間はないんです。大学の外でも学べることはたくさんあります」

熱い決意と自然を守るという意思は、インタビュー中に始終伝わってきた。

最後に彼女からのメッセージ

「多くの若い人は物事の決定に関われると、私は信じています。経験が足りないということは若者の良さでもあると思うんです。箱の外から物事を見ることができますからね」

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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