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フィンランド若者が投票先に迷った時に利用するものとは

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
画像提供: フィンランド若者協議会Allianssi

北欧ではあなたの考えと近い政党や候補者がわかる、「ボートマッチ」「投票マッチング」「選挙コンパス」が市民に広く浸透している。選挙でどこに投票しようか迷っているときの「手助け」として便利なツールだ。

さらに北欧では若い世代を対象とした「模擬選挙」も浸透し、現地ではその結果は大きな注目を集めている。

模擬選挙に参加する若者対象の「若者ボートマッチ」「若者投票マッチング」も、実は存在する。

  • フィンランドの模擬選挙は義務教育から高校・専門学校の18歳未満の未成年が対象
  • 2023年の模擬選挙では9万以上の票が集まった
  • つまりフィンランドの12~17歳の約4人に1人の若者が模擬選挙に参加したことになる
  • 2023年は若者投票マッチングの使用回数は25万回以上

模擬選挙で使用される投票用紙 画像提供: Allianssi
模擬選挙で使用される投票用紙 画像提供: Allianssi

若者版は、大人の有権者が利用する投票マッチングとは異なる質問の集まりになるわけだが、今回は4月2日の国政選挙で盛り上がりを見せるフィンランドの「若者投票マッチング」の質問をのぞいてみた。

筆者が住むノルウェーと比較すると、フィンランドの模擬選挙はノルウェーよりも盛り上がりや注目度は小さいが、模擬選挙の結果はその日の全国ニュースにもなり、現地の選挙期間中の重要なイベントであることは間違いない。

1問目はこのように表示される。問いに対して「全く同意しない」(一番左)「言いたくない」(中央)「完全に同意する」(一番右)から自分の考えに最も近いものを選ぶ 画像: Allianssiの公式HP
1問目はこのように表示される。問いに対して「全く同意しない」(一番左)「言いたくない」(中央)「完全に同意する」(一番右)から自分の考えに最も近いものを選ぶ 画像: Allianssiの公式HP

自分の投票区を選択した後に、合計19個の質問に答える。

若者投票マッチングの特長

※全質問は記事の一番下に掲載

子どもや若者の関心が高いテーマが中心

  • 気候危機と排出量をどれだけ減らすべきか
  • 生理用品の現状価格は高すぎる
  • メンタルヘルス対策として「カウンセリングは無料であるべき」「パンデミックでは若者への支援強化」
  • 気候対策として、食べる肉の量を減らすライフスタイルへの移行
  • ジェンダー平等、ジェンダーを自分で決める権利
  • 薬物使用(主にマリファナ)の支持・不支持

ここで上がる特徴は、北欧他国の若者とも共通する。このような若者を対象とする政策は北欧では「学校政策」とも呼ばれる。

日本にはない「学校政策」という捉え方

「学校政策」というカテゴリーに属する社会課題が存在することで、何が変わるか?

「防衛」「景気」「雇用」「物価高」などの選挙の話題に、「学校政策」もあると、若者が求める政策も「争点」「話題」となりやすい。

日本でも「学校政策」がもっと浸透すれば、「校則」「受験」「選挙活動」「メンタルヘルス」などの課題を、選挙期間中に話しやすくなるだろう。

若者版の投票ボートマッチというのは、学校政策ばかりが集まっていることにもなるのだ。

若者向けの質問を作るのも、若者たち

若者投票マッチングのPRで使用されたメインイラスト 画像提供: Allianssi
若者投票マッチングのPRで使用されたメインイラスト 画像提供: Allianssi

模擬選挙の開催や若者投票ボートマッチを作るのは、フィンランド若者協議会「アッリアンシ」(Alliansi)。

選挙期間中の研修生として働くユリア・ヴィヒネンさんが取材に答えてくれた。

「若者協議会はもう20年以上、若者投票マッチングを作成しています。一番最初のものは1996年に『Harava』(ハラヴァ)という名前で世に出ました」

※現在は「選挙コンパス」という意味でフィンランド語で「vaalikone」

「フィンランド語のharavaは、動詞で『(落ち葉などを)かき集める』という意味です。選挙では個人票をたくさん集めることを『票をかき集める』とも言うので、そこからきているのでしょう」

提供:イメージマート

「19の質問は複数の若者の関連団体の関係者と若者が集まって、オープンミーティングとして、一緒に決めました。質問の下書きは、投票マッチング専門の研究者にも見てもらい、アドバイスをもらいました。高校生にも試験版を試してもらいました」

「政治に詳しくない」と感じる若者にも、使いやすいように

全質問に回答すると、あなたの考えに最も近い候補者たちが表示される 画像: 投票マッチングで適当に筆者が回答して出てきたものをスクリーンショット
全質問に回答すると、あなたの考えに最も近い候補者たちが表示される 画像: 投票マッチングで適当に筆者が回答して出てきたものをスクリーンショット

「今年は初の試みとして、候補者の身分証明のデジタル化を強化しました。つまり、候補者の名前が自動的にシステムに導入されます」

エラーで候補者の名前が間違っていることもあり、その場合は手動で修正するそうだ。

また、今年はさらに質問が分からなかったときに、さらに詳しく説明する『これはどういう意味?』ボックスも追加された。

通常の選挙で使用される投票マッチングでも、同じ仕組みがあり、質問の意図が分からない時のための「短い説明」は投票マッチングでは大事な役割を担う。

「質問の説明文は、政治がよくわからない人や、ここ最近の討論での話題を終えていないという人にとっての手助けになります」

質問を考えるときに、大変だと感じることは?

あなたの回答に最も近い政党や候補者が出てくる 画像: 投票マッチングで適当に筆者が回答して出てきたものをスクリーンショット
あなたの回答に最も近い政党や候補者が出てくる 画像: 投票マッチングで適当に筆者が回答して出てきたものをスクリーンショット

若者投票マッチングを作る時の課題は二つ挙げられた。

  • 「実際の選挙で投票する若い大人」と「模擬選挙で投票する未成年」という両者の異なるターゲット層を考慮する必要がある
  • 全ての立候補者が同じような答えをしてしまう聞き方にならないように、「立候補者の考えの違いが出てくる質問」にしないといけない

模擬選挙は学びの場、投票マッチングは手助けのツール

「投票ボートマッチングを使用するのは模擬選挙の参加者です。模擬選挙で出てくる政党と候補者は、実際の選挙と同じ」

「模擬選挙は若者にとっての学びの場で、選挙・政党・候補者を知り、投票の模擬体験をする場でもあります」

若者投票マッチング19の質問

※首都「ヘルシンキ」区域を選んだ場合

  1. リハビリ精神セラピーは29歳未満の若者には無料であるべきだと思う
  2. 基本的な社会保障給付を受けることができるのは、仕事や勉強などの活動をしている人の身を対象にしたほうがいい
  3. 薬物使用者は罰せられるべきだ
  4. 生理用品の消費税を24%から10%に引き下げたほうがいい
  5. 農業補助金は植物タンパク質の生産のためにもっと使われたほうがいい
  6. 商品がフィンランド国外で生産された場合でも、市民の消費によって発生した排出量は「フィンランドのCO2排出量」として換算したほうがいい
  7. 生物多様性が失われないためにも、国有林を全て伐採するべきではない
  8. 投票年齢と、市民による著名運動の提出ができる年齢は、16歳に引き下げるべきだ
  9. 非暴力的な市民的不服従は受け入れられない
  10. 18歳未満の人が自分で自分のジェンダーを決定することができるトランスジェンダー法が、フィンランドでは制定されるべきだ。
  11. EUおよび欧州経済領域以外の国からフィンランドに留学する場合、無料である大学生の年間授業料を廃止して、有料にするべきだ
  12. 学校は、宗教的・人生観の教育を、手段宗教・世界観の教育に変更するべきではない
  13. 若者が実家を離れることなく、一般的な後期中等教育(高校)や職業学校を終了できるようにするべきだ
  14. フィンランドは、兵役の代わりに民間役務に移行するべきだ
  15. たとえ中国などとの大国との関係を弱めることになるとしても、外交政策においては人権と平等は推し進めなければいけない
  16. たとえフィンランド政府の出費が増えることになるとしても、発展途上国が気候変動に対処し、再生可能エネルギーに切り替えるのをフィンランドは支援しなければいけない
  17. 経済政策は、経済成長を追い求めるよりも、気候危機や生物多様性の損失との闘い、市民のウェルビーイング向上など、持続可能な開発に基づくものでなければいけない。
  18. 高所得者は、低所得者よりもより多くの税金を支払ったほうがいい
  19. コロナ禍の倦怠感に対処するために、他の年齢層よりも多くのリソースを若者には割り当てたほうがいい

北欧の模擬選挙は若者が中心となって、投票会場や投票用紙も自分たちで作ることが多い。

若者版の投票マッチングも存在し、質問製作にも若者が関わっていることは、日本ではまだあまり知られていないと思う。

日本でも、若者版の投票マッチングが普及すると、さらに選挙への敷居を低くするとことができるのではないだろうか。

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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