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血圧測定!?「フィーカ」の国スウェーデンの選挙カフェ文化と若者が政治を「楽しい」と言う理由

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
政党のユニークな選挙活動「無料で血圧測定しませんか?」 筆者撮影

9月11日に開催されたスウェーデン国政選挙と統一地方選挙。

初の女性首相、わずか10カ月で辞意 スウェーデン市民に聞く、どう見たか?

首都ストックホルムで、筆者が出会った現地の市民と楽しそうな選挙風景を、今回は写真でお届けしたい。

スウェーデンといえば「フィーカ」と呼ばれる、コーヒーと甘いものを一緒に楽しむ時間が世界的にも有名だ。

フィーカ文化は選挙期間中も絶好調。コーヒーと甘いお菓子があれば、政治の話も楽しくできる!

どの政党もたくさんのお菓子、コーヒー、お茶、ジュースを用意して、市民との政治の会話を楽しんでいた 筆者撮影
どの政党もたくさんのお菓子、コーヒー、お茶、ジュースを用意して、市民との政治の会話を楽しんでいた 筆者撮影

各政党がスタンドを立てて、飲食物や文房具などを無料配布したり、市民と政治の話をする空間を筆者は「選挙小屋」と呼んでいる。

選挙小屋は「無料カフェ」のようでもあり、「祭りの屋台」のようでもあ

驚いたのは左翼党の選挙小屋での「血圧測定」という選挙活動!

北欧でいろいろな政党の取り組みを見てきたが、血圧測定はあまりにも斬新すぎた。

「初の女性首相がやっとスウェーデンで誕生して良かった。企業でもどこでも、女性の割合は半分はあったほうが社会にいい影響を与えます」と、モニカさんは自国のジェンダー平等も讃える 筆者撮影
「初の女性首相がやっとスウェーデンで誕生して良かった。企業でもどこでも、女性の割合は半分はあったほうが社会にいい影響を与えます」と、モニカさんは自国のジェンダー平等も讃える 筆者撮影

左翼党には看護師の党員が多いため、実際に血圧測定をするのも立候補する看護師だ。検査をしたい高齢者が次々とやってくる。

モニカさんはなんと、「もう他の政党に事前投票した」という。単に血圧を測りたかったそうだ。

測定してくれた男性に、「数値を覚えられないから、メモしてくれないかしら」と言われ、彼は目の前にあった政党パンフレットに直接書き込んでいた。

社会民主党が配布する飲み物や食べ物はどんどんとなくなっていく 筆者撮影
社会民主党が配布する飲み物や食べ物はどんどんとなくなっていく 筆者撮影

コーヒーは大人たちが次々と飲む 甘いパンもどうぞ 筆者撮影
コーヒーは大人たちが次々と飲む 甘いパンもどうぞ 筆者撮影

スウェーデンでは政党が無料のフェイス・ペインティングを子どもにサービスすることが多いようだ。他の政党でも見た光景。子どもが遊ぶための空間ができていた 筆者撮影
スウェーデンでは政党が無料のフェイス・ペインティングを子どもにサービスすることが多いようだ。他の政党でも見た光景。子どもが遊ぶための空間ができていた 筆者撮影

左翼党ではポップコーンなどのお菓子も無料配布し、ダドゴスタル党首(左の女性)も演説にかけつける 筆者撮影
左翼党ではポップコーンなどのお菓子も無料配布し、ダドゴスタル党首(左の女性)も演説にかけつける 筆者撮影

中央駅前にある各政党の選挙スタンドが集まる選挙小屋の空間。子どもを連れているお父さんの姿も多い 筆者撮影
中央駅前にある各政党の選挙スタンドが集まる選挙小屋の空間。子どもを連れているお父さんの姿も多い 筆者撮影

ヘギさんは各政党への質問と回答をリスト化していた。「どこに投票するかまだ迷っていて。各党の政策を知れば知るほど混乱するので、政党を回って政策をもう一度確認しているんです」筆者撮影
ヘギさんは各政党への質問と回答をリスト化していた。「どこに投票するかまだ迷っていて。各党の政策を知れば知るほど混乱するので、政党を回って政策をもう一度確認しているんです」筆者撮影

日本のような演説しながらの選挙カーはないが、政党の党首率いるチームは目立つ選挙バスで市内をまわる 筆者撮影
日本のような演説しながらの選挙カーはないが、政党の党首率いるチームは目立つ選挙バスで市内をまわる 筆者撮影

市内で演説をする中道右派・穏健党のクリステション党首。今選挙で政権交代となり、新首相となった 筆者撮影
市内で演説をする中道右派・穏健党のクリステション党首。今選挙で政権交代となり、新首相となった 筆者撮影

スウェーデンは噛みタバコ利用者が多く、使用済みの噛みタバコを入れるケースを自由党が無料配布。箱には党首の顔写真シール 筆者撮影
スウェーデンは噛みタバコ利用者が多く、使用済みの噛みタバコを入れるケースを自由党が無料配布。箱には党首の顔写真シール 筆者撮影

左からホッケさん、フーゴさん、ジョナサンさんは(14) 筆者撮影
左からホッケさん、フーゴさん、ジョナサンさんは(14) 筆者撮影

3人の若者は、投票できるまでにまだ4年あるが、政治家と話ができるのではと期待して来たそうだ。学校の宿題かと思いきや、単に「楽しいから」政治家と話したかったとのこと。政治に関する動画をSNSにアップするほど政治の話が好きだという。

ホッケさん「スウェーデンのギャング問題は解決されないと」

ジョナサンさん「政党の党首と話したかったんだけど、会えなかった」

ホッケさんはスウェーデンで投票率が高い理由を「みんなスウェーデンの一部でありたいからだと思う。変化が起きている場に参加したいんじゃないかな。変化を望んでいるんだよ」

3人は各政党を回り、風船、バッジ、キャンディーなどを集めていた 筆者撮影
3人は各政党を回り、風船、バッジ、キャンディーなどを集めていた 筆者撮影

携帯可能なアルコール消毒液を無料配布する政党も 筆者撮影
携帯可能なアルコール消毒液を無料配布する政党も 筆者撮影

自転車で立ち寄る市民も多い。飲食物や政策パンフレットをもらったり、政党に質問したりする 筆者撮影
自転車で立ち寄る市民も多い。飲食物や政策パンフレットをもらったり、政党に質問したりする 筆者撮影

マチルダさん(13)とエーリンさん(13)は社会民主党に学校政策の質問をして、赤いバラをもらった。「政治は大事だから、投票率が高いと思う。政治の話をするのは楽しい」
マチルダさん(13)とエーリンさん(13)は社会民主党に学校政策の質問をして、赤いバラをもらった。「政治は大事だから、投票率が高いと思う。政治の話をするのは楽しい」

選挙小屋をうろうろしていると、政党の党首や大物議員が演説したり、立ち寄ることもある。コーヒーを飲みながら、パンをもぐもぐと食べながら、市民は政策の話に耳を傾ける 筆者撮影
選挙小屋をうろうろしていると、政党の党首や大物議員が演説したり、立ち寄ることもある。コーヒーを飲みながら、パンをもぐもぐと食べながら、市民は政策の話に耳を傾ける 筆者撮影

エーリンさん(16)「学校と若者を気にかけている政治を重要視しています。政治のことはまだよく分からないことが多いです。だから学ぶためにここに来ています」筆者撮影
エーリンさん(16)「学校と若者を気にかけている政治を重要視しています。政治のことはまだよく分からないことが多いです。だから学ぶためにここに来ています」筆者撮影

ディーターさんとアブリンさんは中央党の青年部に所属して選挙活動を手伝っていた 筆者撮影
ディーターさんとアブリンさんは中央党の青年部に所属して選挙活動を手伝っていた 筆者撮影

ディーター(19)「青年部に所属することで、社会をいい方向に変えていけるんです。自分たちには社会を変える力があると感じます。そのためには政治に貢献する必要があります。今年は初めて投票するのですが、ワクワクします」

アブリン(15)「政治にずっと関心があったんです。政治の知識があまりないという若い人に出合うことは多いのですが、残念だと思う。だって若い世代は未来なんだから」

「右派左派に限らず女性議員は多くいたほうがいい。市民が自分の考えに近い人を見つけることができる状況が大事だと思います。色々な考えをする女性議員がいないと。学校と選挙運動の両立は大変だけれど、フルタイムで選挙活動をしているわけではないし、先生たちは理解してくれています」

オデット さん(13)「思い出のために政党バッジを集めています」

シーリさん(13)「なぜ私たちが投票するべきかを各政党を回って聞いています」

リンさん(12)「学校でも模擬選挙があって、楽しかった」

筆者撮影
筆者撮影

選挙になると、各地に選挙小屋の空間が出現する。

そこではフィーカをしながら、政治のおしゃべりに花が咲く。

それぞれ意見は違っても、この時期を楽しんでいる人は多い。

コーヒーの時間が大好きな北欧の人たちが育む空間に、「楽しい」と若い人たちが集まってくるのも、理解できるのである。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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