フィンランドの同性愛と不安障害を映画化『ベイビー・ジェーン』
フィンランドの有名な作家ソフィ・オクサネン(Sofi Oksanen)の小説が映画化された。『Baby Jane』では、女性同士で交際する2人の愛と葛藤、片方のパートナーが不安障害で社会に出れずに、心を壊していく過程が描かれる。
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あらすじ
若い少女のヨンナは、大きな街に引っ越してから、年上のピキに出合う。ヨンナは美しく愛らしい、フェミニンな恰好をする一方、ピキは黒いジャケットに身を包む、男性的な一匹狼の雰囲気を醸し出す。対照的なふたりは、出合ってすぐに魅かれ、交際を開始。
ピキは不安障害を患っており、ひとりで街に出ることができず、かつての彼女であるボッサが、ピキの身の回りの世話をしていた。経済的な収入を得るために、ヨンナが着用した下着を、ピキはネットで売る。家庭や結婚など、将来の理想を描くカップルだが、悪化するピキの不安障害とボッサに依存する生活が、ふたりの関係を危うくし始めた。
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私が住むノルウェーでは、公共局NRKの記事ではサイコロ6点満点中2点とかなりの辛口評価!多くの評価記事では、「原作ほどではないので、原作レベルを映画に期待しないほうがいい」とは書かれている。私個人としては、同性愛者をテーマにした映画が少ない中(しかも女性同士の関係となると、もっと少ない)、こういう作品もあってはいいのではと思った。心に響かなかった映画は鑑賞後にすぐ忘れるが、本作は見たのが数か月も前なのに、今もはっきりと覚えている。
「同性愛」、「女性同士の恋愛」を主軸で見る人もいるかもしれないが、「不安障害」というメンタルヘルスにフォーカスして鑑賞することもできる。私自身もパニック障害を経験しているので、前に進もうとしているけれど、体や心がどうしても言うことを聞かずに、落胆するピキの姿に感情移入してしまった。
ストーリーは幸せそうなふたりから始まるが、どんどんと闇は深くなっていく。始終、どんよりとした空気感の中で、話を追うことになるだろう。上映時間は90分のようだったが、2時間くらいは映画館の席に座っていたような感じだった。
フィンランドのちょっと憂鬱(ゆううつ)な現地の空気感は、作品の映像美からも伝わってくる。カメラを通しての映像美と独特な世界観は高評価を受けている。
北欧は確かに性の多様性に関しては、日本よりも開かれた社会だろう。世界最年少34歳の女性首相に選出されたサンナ・マリン首相は、昨年末から世界中で大きなニュースとなった。彼女の生い立ちのひとつのエピソードとして、母親とその女性パートナーである同性カップルの家庭で育ったことも、日本では何度も報道されただろう。
フィンランド観光局の公式HPを見ていると、「フィンランドでは、同性愛者だということを秘密にしておくなんていうことはありません」という大胆な文章が目についた。私が住むノルウェーも性の多様性は尊重しているが、異性愛者とは限らない性的嗜好を今でも隠したり、堂々と公にしない人は、今でもいる。「フィンランドは、何か違うのかな?」と鑑賞後にもんもんと考えるのも、映画の味わい深さといえよう。ちなみに、本作では同性愛者であることを隠す登場人物もいる。
原作は、フィンランド文学界ではあまり取り上げられることのなかった薬物治療、心の病気のケアを題材にしていることでも評価されている。日本でも、映画祭などでいつか公開されることがあるかもしれない。
Text: Asaki Abumi