起業しやすい・働きやすい「北欧カルチャー」とは
北欧各国では、よりよい社会への実現を目指して、スタートアップ業界の後押しが進んでいる。
2019年11月、フィンランドの首都ヘルシンキでは、「Slush」(スラッシュ)という北欧最大級の業界イベントが開催された。
現地の関係者に取材して、北欧のカルチャーがイノベーションやスタートアップに向いている理由を並べてみた。
起業しやすい空気をうむ北欧カルチャーとは
- 「課題は最高の解決策でチャンスである」という考え方(高齢化社会など)
- 人材育成に必死
- ヒエラルキー社会ではない、女性や若者にドアを開く
- 伝統をあまり重んじなくてもよい
- 「平等社会」や「小国」という条件がうむ、他者と協力しあう姿勢
- お互いを応援しあうサポート・カルチャー
- 間違いを歓迎する
- 「サステナブル」は北欧のDNA
- ゴミやプラスチックを減らす動き(ゼロウェイスト、プラスチックフリー)
- コミュニティづくりが好き
- 進むデジタル化
- 他者にも知識や情報をシェアする、相手を信頼する心
- 自分の後に続く人たちを助けようとするマインド
- 仕事をしながらも育児をしやすい国の支援
アジアが競争社会なら、北欧は競争を好まない平等社会だ。協力しあう姿勢は国内にとどまらず、小国だという自覚が強い北欧各国に共通する。
デンマーク、スウェーデン、アイスランド、ノルウェー、フィンランドでタッグを組み、「北欧チーム」で世界の市場に進出しようという、垣根を超えたチームプレーが北欧カルチャーの強みだ。
若者を応援
フィンランドでは、若者の起業を応援する環境づくりが進んでいる。
スラッシュはもともと学生が中心となって発足。
今や、世界で有名な一大イベントとなり、現地の大学生にとって、「卒業後は自分でビジネスを立ち上げるのがクール」という新しい風をうんだ。
スラッシュのイベントに関わること事態も人気で、毎年多くの大学生がボランティアとして会場をサポートする。
国の起業カルチャーを変えた学生イベント
スラッシュの元CEOであるマリアンネ・ヴィッコラさん(27)は、現在はフィンランド発スタートアップの「WOLT」で働く。
「スラッシュによって、フィンランドのスタートアップ業界は大きく変化しました。何かをつくりあげて変化を起こすビルダー・メンタリティがうまれ、過去5~10年間で起業カルチャーを誇りあるものへと変えたんです」と取材で語る。
フードデリバリーといえば、ベルリン発の「foodora」の欧州進出がすさまじい。この独占市場に乗り出したWOLTは、「一人勝ち」の状況を変えたいと燃えている。
アールト大学で養われる知識と魂
大学の支援も手厚い。アールト大学には独自の支援プログラムがある。スラッシュのボランティアの半数であるおよそ1000人は、アールト大学の学生だ。
起業をする人を支援する独自の基金もあり、学生がビジネスを立ち上げやすい環境をつくる。
起業について学べる学習サポートプログラムのほかに、大学の各科目にも起業を学ぶ教育を入れ込んでいる。
以前、別記事で紹介したことがある、コーヒーのかすと廃棄予定のプラスチックを使用してスニーカーを作る「#rens」もここから生まれた。
「大学は起業に興味がある学生の手伝いはしますが、彼らをコントロールしようとはしていません。自由を大事にしています」とアールト・ベンチャー・プログラムの担当者であるイリヤ・リエッキさんは取材で話す。
スタートアップのためのキャンパスを開設
大学にキャンパスがあるのは当たり前だが、北欧スタートアップ業界のための「キャンパス」がヘルシンキにある。
「maria 01」は、「北欧で最もリードするスタートアップキャンパス」と掲げ、エコシステムの拠点となろうとしている。
キャンパス内にオフィスがある「OSGENIC」は医者を中心に立ち上がった。彼らのVR(仮装現実)体験の技術があれば、医師が手術の練習を体験することができる。
現場には日本市場への進出を夢見る企業もたくさんいた。
反対に、インスピレーションを得ようと多くの日本の企業やメディアの姿もあった。
成長を続けるスラッシュや北欧の起業コミュニティ、これからの成長に目が離せない。
Photo&Text: Asaki Abumi