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「世界初!時計のない島」はPRだった ノルウェー

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
「時間によるストレスがない島」は観光客を呼び寄せるための「嘘」だった(写真:アフロ)

「北極圏の島が、時間のないタイムフリー・ゾーンになりたいと要求!」

6月初旬、北欧ノルウェー初のこのニュースはすぐさま国際的に大きく報道された。

内容はこうだ(ノルウェー国営放送局の当時の記事より)

  • オーロラ鑑賞でも人気のある都市トロムソにあるソマロイが、「時間のない島」でありたいと宣言
  • 300人の住民による会議がされ、要望書は国会議員へ提出
  • 「白夜や夜も明るい空があるため、夏は時間を図る必要はない」という主張
  • 「現代人がストレスや鬱に悩む原因には、時間も関係している。タイムフリー・ゾーンでは、あなたの人生を生きられるだろう」という考え
  • 「自分たちの時計を橋に残して、時間を忘れてもらう」のが目標

島には、実際に橋に腕時計が何個も残されていた。

このニュースは世界中で話題となった。

私はこの件をなんとなく放置していたのだが、「掲載していなくてよかった」と思った。

「全部PRでした!」

25日の夜、ノルウェーの報道各社は一斉に速報を流す。

「時計のない島」はPRだった国営局アフテンポステン紙VG

「そんな運動があるのは、ニュースで聞くまで知らなかった」と反応する住民。国営局は不思議に思い、調査を進めていた。

結果、国営の産業推進機関イノベーション・ノルウェーによる、PR業者を使ってのキャンペーンだったことが判明。

目的は、世界的に話題にさせ、北部への観光客を集客することだった。

「メディアを『だます』ような形にしたくはないとして、そろそろ事実を公表するべきだと感じた」と、同社の観光事業の責任者ホルムはノルウェー国営局に話す。

CNNなど数多くのメディアに報じられ、同氏はキャンペーンは「成功だった」としている。

ニューズウィーク日本版「世界初「時間のない世界」へようこそ、北極圏の島が名乗り」

ノルウェー国営局は、日本では「テレビ東京」も関心を寄せていたと報じている。

笑い話?問題あり?

すでに問題も指摘されている。

  • イノベーション・ノルウェー(国の機関)への信頼度が低くなるのでは
  • PRにつぎ込まれたのは国のお金(税金)
  • 報道関係者のチェックが甘すぎた
  • 「だまされた」と感じている人がいるであろうこと

第一報を流した国営局の記事がシェアされたFacebook記事には、このようなコメントがある。

  • 「フェイクニュース」
  • 「いいストーリーと嘘のストーリーは、同じではないのでは」
  • 「だまされた!でも時間のないゾーンは、いいアイデアだよね」
  • 「その島に引っ越したいとさえ思った!飛行機のチケットをまだ買っていなくてよかった」
  • 「上手!注目が集まれば、観光業もまわる」

「上手なキャンペーンだ」と笑える、「良い広告例」だろうか?

Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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