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ポピュリスト現役議員、ノーベル委員会入りを阻止される 新メンバーの顔ぶれは?

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
委員会入りを熱望していたハーゲン氏 Photo: Asaki Abumi

ノーベル平和賞受賞者を決定するノルウェー・ノーベル委員会の5人のメンバーに仲間入りをしたかったカール・I・ハーゲン氏。

与党・右翼ポピュリスト政党「進歩党」の元党首であり、現役議員である彼の夢は破れた。

8日、ノルウェー国会は、「ハーゲン氏の日」と呼ぶにふさわしかった。

与野党の大多数の反体勢力は、ハーゲン氏の委員会入りを阻止しようと動き続けた。今週、「現役の国会・代理議員は不適格」とする新規則を急遽提案し、強行。

現在のベーリット・レイス・アンネシェン委員長(労働党推薦)は、86の賛成票を得て続投となったが、ハーゲン氏の賛成票は16票。

本来であれば、各党の推薦者はそのまま国会で承認されるという、従来の慣習は大きく打ち破られた。

ハーゲン氏は「私は物議を醸す政治家。憎まれもし、愛されてもいる」、「これは不平等だ。私がカール・I・ハーゲンだから反対したのだろう」と現地メディアに話す。

同氏は連日メディアの注目を浴びていた。

コメントは避けていたが、国会決議での前日から、一気に取材陣の前で発言を開始。本人は、むしろ自身のハーゲン劇場を楽しんでいるかのように見え、微笑むシーンもあった。

産業紙DNの政治編集長であるアルスタハイム氏は、ハーゲン氏の委員会入りに否定的だった。

前日から喜んでメディアに出るハーゲン氏の様子を、「テレビ局や国会にちょくちょく現れる、スポットライトを浴びたいサーカスの主役のようだ。ノーベル委員会の候補者を決めるプロセスで、このような『選挙活動』をする人物は今までいなかった」と批判(ノルウェー国営放送局NRK)。

新しい委員会の顔ぶれは?

結果、ノーベル委員会のメンバーはこのようになった。

続投

  • Berit Reiss-Andersen (現委員長、労働党推薦)
  • Henrik Syse (保守党推薦)
  • Thorbjorn Jagland (労働党推薦)

新メンバー

  • Anne Enger (中央党推薦、元中央党党首、元文化大臣)
  • Kristin Clemet (ハーゲン氏の代理メンバー、保守党推薦。元保守党・元労働大臣・元教育大臣。現地のシンクタンクCivitaの運営者)

相変わらず、元政治家・元国会議員の顔ばかりが目立つ委員会だ。

元委員長、自主的に辞任するか?

元委員長であり、欧州評議会の事務局長であるトルビョルン・ヤーグラン氏(元首相・元労働党党首)は、自発的な辞退を求められていたが、本人はノーコメントを貫いている。国際機関のリーダーが委員会にいることには、以前から疑問の声があがっていた。

各党は、ヤーグラン氏は自発的に委員会から身を引くべきだと主張。「今回の授与式を最後に、来週には辞退を申し出るべきだ」と各党がメディアを通して圧力をかけている(NRK)。

進歩党は新しい候補者探しに

進歩党は、これからハーゲン氏の代わりとなる新しい候補者を決めることに。来年の2月までに、時間をかけて決めたいとしている。

今回の騒動で、他政党からの攻撃を快く思っていない進歩党。また物議を醸す人物を推薦してくる可能性がないともいえない。

進歩党の新たな候補者は誰に?

すでに候補者として現地メディアで話題となっているのは、ヘーゲ・ストルハウグ氏。

ノルウェーで物議を醸す人物として有名だ。イスラム教徒や移民・難民の受け入れに否定的で、ムスリムに批判的なニュースサイト「rights.no」を運営。フェイクニュースや移民への憎悪を拡散させるサイトとして批判を浴びている。

ハーゲン氏は、ストルハウグ氏ならば「いい候補者になるだろう」とVG紙に話した。

週末はICANや被爆者が主役に

「ICANが平和賞を授与する直前に、ノルウェーではなぜこれが注目を浴びているか」と思う人もいるかもしれない。

毎年、ノルウェーでは授与式直前まではメディアは静かだ。水面下では取材が始まっており、前日・当日に一気に平和賞の話題となるのが常。

週末はハーゲン劇場はお休みとなり、ICANや被爆者が話題となっているだろう。

ノーベル平和賞の授与式は10日(日)にオスロ市庁舎で開催される。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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