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ノルウェー王太子妃が現地メディアと議論 閲覧数狙いの芸能ネタばかりは無責任

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
メッテ・マーリット王太子妃(左から2人目) Photo: Asaki Abumi

ノルウェーのメッテ・マーリット王太子妃が、国内で最も閲覧数が高いとされるVG紙の元トップとジャーナリズムの在り方について議論した。

若いリーダーや才能ある人のために開催されたクリスチャンサンでのSikt会議。王太子妃とVG紙の元編集長であるトリー・ぺーデルセン氏の討論は、現地メディア関係者からは大きな注目を浴びていた。

かつて一般人であった王太子妃は1月、全夫との子であるマリウスに対しての過剰報道をやめるように現地メディアに通告

報道関係者からは「ノルウェーでの報道は、そもそも他国ほどひどくはない」と猛反発を浴びた。一方で、「息子を心配する母親の気持ちは理解できなくもない」という声も国内のSNSでは目立った。

王室御一家は広報部からのコメントを流すことはあるが、記者や編集者らと直接議論することはほとんどない。今回の時間は、ノルウェー国営放送局NRKがネットで生中継し、王太子妃がどのような発言をするのか注目を集めた。

ジャーナリズムについての議論を楽しみにしていた

王太子妃はスニーカーを履いて、カジュアルな格好で登場。王太子妃が壇上で「司会」を務め、最もタブロイドなニュースを流す最大手新聞社の元トップが、リラックスした様子で、王太子妃と「おしゃべり」する光景はノルウェー独特のものといえるかもしれない。平等政策を推進してきたノルウェーでは、王室も政治家も一般市民との距離が近いことが求められる傾向にある。

王太子妃は始終大声で笑っており、議論を楽しんでいたようだった。

マリウスについての話は、王室側が嫌がったのか、触れられることはなかった。

「私はこの時間を楽しみにしていました。緊張していますか?」と王太子妃がぺーデルセン氏に問うと、「緊張はしていませんが、なにかしら“仕返し”がくるだろうと精神的に準備はできています」と笑う。

芸能ジャーナリズムが多すぎる

王太子妃は、ずっと聞きたいことがあったようだ。「間違って引用されないように、言葉に気を付けないと……」と言いながら、王室や人気ブロガーばかりをネタにする、クリック数目当ての「『芸能ジャーナリズム』が多すぎるのはなぜ?」と問う。

「人々が学び、知る必要のある重要なニュースを届ける責任はないのですか」と王太子妃は質問した。

「私だって、個人的には一部の芸能ネタには興味はありません。しかし、ノルウェー全国の大勢の人に商品を届ける立場では違う見方をします。新聞社は稼ぐ必要もあります。人々がクリックするのが、王太子妃のいう重要なニュースとは限りません」。

その問いに王太子妃は、「私はあなたには同意できません」と即答。読まれたいニュースだけが増える「クリック・ジャーナリズム」以外のものを掲載する責任はメディアにはないのかと話した。

王太子妃のこの姿勢には会場から大きな拍手があがる。

他に、VG紙などが率先して創設したファクトチェック機関「faktisk.no」は、なぜノルウェーでは必要とされたのかと王太子妃が質問する光景も。

欧米での選挙の不安定さと、ノルウェー市民のメディアや政治機関への高い信頼度を維持するためには、必要な流れだったとぺーデルセン氏は話す。

メディアに電話する王太子妃

人々の間に高い信頼度があることは王太子妃も誇りに思っており、メディアが変化するこの時代に生きていることを「幸運に思う」と語った。

「ジャーナリストや編集者と私が直接話すことができる今の現状は、ありがたいと思っています。私は、あなたたちに電話したこともありますからね」と笑う。

ぺーデルセン氏は、虚偽であると認識されたうえで情報発信される「フェイクニュース」と、「悪いジャーナリズム」には違いがあるとも指摘。

「悪いジャーナリズムとは、まぁ、王太子妃が嫌いな種類のジャーナリズムですね」と同氏が言うと、「うまく共存はしているわ」と王太子妃は答えた。

最近の私のFacebookにはダイエットピルの広告が多い

今回の議論では、王太子妃が日常的にFacebookを使用していることも伝わってきた。

「私は疲れている時、間違って読むつもりのなかった記事をクリックしてしまうこともあります。人気ブロガーや、私のファッションについて書かれた記事をクリックしてしまうと、勝手に自分のフェイスブックに関連記事が増えてしまう。読みたいニュースは自分で選びたい」とぼやく。

この反応にぺーデルセン氏は「え!あなたのような人でもそのような記事を目にするのですか」と驚いていた。

「最近のフェイスブックでは、ダイエットピルを売ろうとする広告が多い」とも王太子妃はつぶやいた。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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