偽ニュースのSNS拡散スピードに事実が勝利するには ノルウェーのファクトチェック団体(3)

午前中の会議で調査対象などを検討・相談 Photo: Asaki Abumi

偽ニュースの拡散スピードに「事実」が勝利した事例

ノルウェーのファクトチェック団体「ファクティスク」の成功例があると、代表のクリストッフェル・エーゲバルグ氏は話す。

ノルウェーの元首相であるグロ・ハーレム・ブルントラント氏(労働党)。彼女は、「フランスに住んでいて、ノルウェーで納税していない」という偽ニュースをSNSで拡散された。同団体は、この騒動を「完全に事実ではない」と8月8日に結論付けたのである。

これは、移民やムスリム批判で有名な「ヒューマン・ライツ・サービス」というノルウェーの団体が拡散したものだった。

ブルントラント元首相は初の女性首相として、現地の人々の記憶に強く残っている政治家だ。

偽ニュースを流出されたブルントラント元首相 Photo: Asaki Abumi
偽ニュースを流出されたブルントラント元首相 Photo: Asaki Abumi

中道左派とされる労働党は、移民の受け入れに寛容なイメージが強かった。ブルントラント元首相はその後転職し、国外に在住していこともあったために、納税の件が噂になることがあった。今年の国政選挙で、彼女は労働党の応援に駆け付けた。結果、右派を支持する団体に批判対象として狙いを定められたのだ。

「この議論はすぐさまノルウェーのSNSで注目を集めました。我々は、興味深いと思いました。彼女がノルウェーに住んでいるのか、不明瞭な点もあり、何が真実なのか、我々もよくわからなかったからです」。

自身のデスクで仕事をするエーゲバルグ氏 Photo: Asaki Abumi
自身のデスクで仕事をするエーゲバルグ氏 Photo: Asaki Abumi

「ノルウェーでは住民票や納税記録は公開されているので、事実確認は容易でした。我々は驚きましたよ。彼女はノルウェーに戻っていて、しっかりと納税していたのですから」。

「ヒューマン・ライツ・サービスだって、簡単にこのことをチェックできたはずです。我々は、間違っている情報だと、すぐに各報道機関に結果を知らせ、このことはすぐさまシェア・報道されました」。

結果、その日の朝にノルウェーで最も話題となったネット情報は「ヒューマン・ライツ・サービス」団体の主張だったが、その日の夜にはファクティスク団体の事実確認が、最も話題となったという。

「興味深いことに、事実が周知されていくほど、間違ったオリジナルの主張は、徐々にヒートダウンしました。恐らく、多くの人が、両方の主張を見聞きしたでしょう。ファクトチェックが偽ニュースに勝つことができた、成功例だと思っています」。

政治的なバランスを保つことの難しさ

ファクトチェック団体を運営するにあたり、チェック対象が政治的に寄りすぎることへの批判に対しては、「難しい」とエーゲバルグ氏は答える。

「何をチェック対象とするのか。医療、教育、政治と様々です。今は選挙中なので、どうしても政治の話題が多くなります。選挙後は、医療・保健・気候などのテーマもよいと思っています」。

「とはいえ、バランスというものは難しい。人間的なものでもあるので、毎日の課題です。だからこそ、メンバーで集まり、自分たちはバランスがとれているか、何かを忘れていないかを話し合うようにしています」。

「これに対して、ひとつの答えはないと思います」。

「自分の見る世界が、他の人と同じとは限らない」と人は認識できているか

「ジャーナリストには、家族や友人と一緒にコーヒーを飲む時間も必要です。オフィスに座ってばかりでは、なんでも知ったような気になって、社会の一部であることを忘れるかもしれない」。

「私の見るFacebookの画面は、恐らくあなたのものとは違います。自分が見る世界が、他の人にとっても同じだとは限らない」。

オーナーの報道機関から圧力はかからない

オーナーである4社から金銭的な支援はあっても、業務内容に口出しされることはないそうだ。オーナーや連携するスポンサーたちをファクトチェックの対象にすることもあるという。

この「援助金をもらいながら、その相手を批判する」という姿勢や、競合同志でも協力しあえる体制は、ノルウェーではよく見られる独特のカルチャーともいえる。そのため、日本など他国で丸ごと参考にできるものではないかもしれない。

今後の課題、より情報を透明化?

中立的で透明性のある独立機関だと信用してもらうために、今後はさらに透明化を進めていくとエーゲバルグ氏は最後に話す。

「国によって、どれほどジャーナリズムが信頼されているかは異なり、対応策も変わってきます。アメリカと比較すると、ノルウェーでは報道機関への信頼は高い」。

「もっと透明になるべきか?ポッドキャストを始めたり、議論を公開するか?テクノロジー企業やFacebookなどとの連携も必要になってくるでしょう。Facebookは偽ニュースを拡散させたとして批判を浴びたので、協力的です。選挙中は、我々の投稿は無料で広告枠をもらっていました」。

「偽ニュースという巨大市場に対抗するのは大変です。偽ニュースやプロパガンダは、常に一歩先をいっている。我々も新しいことをしなければ」。

今はノルウェー国内の話題だけだが、いずれは気候変動など、グローバルな話題をファクトチェックすることもありかもしれないと、エーゲバルグ氏は話した。

Photo&Text: Asaki Abumi