ノルウェーの高校生が難民申請者からの財産没収法を授業で議論 批判的思考を養う訓練

ノルウェーの高校の授業は日本と大きく違った Photo:Asaki Abumi

デンマークよりも厳しい没収案がノルウェーに存在していた!?

デンマークで可決された難民申請者からの財産没収法。ノルウェーで「宝石法」と呼ばれているこの出来事は、ノルウェーの人々にとって他人事ではない。なぜなら、ノルウェーにはさらに厳しい法律がすでに存在していたからだ。

物品の強制没収はしないが、ある程度の財産を持参していた場合は、生活援助費が一部差し引かれるという法律がある。このことは国内でも広く知られておらず、ノルウェーの政治家や国民を仰天させた。なぜなら金額だけ比較すると、ノルウェーの法律のほうが厳しいからだ。実際にはほとんど活用されていないルールだとされているが、「恥ずかしい!」と発言した政治家もいた。

また、移民・難民に厳しい与党の進歩党が、デンマークのように財産を強制没収するべきだとも主張し始めている。

ノルウェー極右政党も難民申請者から財産の強制没収を検討へ 納税者のお金に頼るならまず財産を提出せよ

高校生が「政治と人権」の授業で、宝石法について熱い議論

筆者がオスロ市内にあるフォス高校を取材で訪ねていたところ、たまたまこの「宝石法」について「政治と人権」の授業で話し合うというので、見学させてもらった。この話題について、先生はどのように教えているのか、気になってしかたがなかった。

新聞記事を読むのかと思ったら、ノルウェー国営放送局で生放送されたばかりの政治討論番組を数分間視聴。宝石法について政治家や若者が議論している内容だった。

その後、先生はゆっくりと話し始めた。

Photo:Asaki Abumi
Photo:Asaki Abumi

先生「これは、効果がないにも関わらず、実行することで統率力があることを見せようとするための“シンボル政治”だね。事実、難民申請者は、実際は多くのものを持っていないのだから。政治家がよく使う手法だよ」

A君

「この議論には2つの側面があると僕は思う。“難民申請者にドアを開こう”という人たち。“シリアは自分たちで問題を解決しろ”という人たち。でも両方ともバカらしいな。現実をわかっていない。ニュースで見るのと現実は違う。シリアのことは自分たちで解決しろといっても、そんな簡単なことじゃない。単に難民申請者を受け入れようという人たちは、ノルウェーにどのような結果をもたらすのか分かっていない。人種差別だって広がるかもしれない」

先生「反対意見はあるかな?」

B君

「人種差別に関してだけど……。一定の民族に対するこのデンマークの扱いは、うーん……。“こういうものなんだ”って政治家が言い始めてしまって、こういう政治が最後にたどり着くのは……、政府によるホロカーストみたいなものじゃないかな」

C君

「僕たちはすぐに一番最悪なものと比較しちゃうからね。ドナルド・トランプやヒトラーみたいに」

先生「おや、ドナルド・トランプやヒトラーの名前がでてきたことはおもしろいね。ガーディアン紙の風刺画のことはどう思う?これはいいことかな?」

D君

「風刺画は風刺画としてみるべきで、現実的にみるべきじゃないよ。ガーディアン紙はデンマーク首相を人種差別者だと言いたかったわけではないんじゃないかな」

一生懸命、自分の考えを言葉にする訓練。間違った答えや正解はない

教室にいる生徒は17~18歳だ。政治についてスラスラと意見を述べられるわけではない。一部の生徒は、うまく考えがまとまらずに、言葉をつなぎあわせながら、一生懸命に話そうとしているのが印象的だった。また、教員は自分自身の考えも言いながら、「様々な意見があっていいのだよ」ということを伝えるために、異なる意見を常に求めていた。

黒板や教科書を見ながら静かに進める、暗記重視の日本の授業とは大きく違っていた。授業中、彼らは一度も教科書を開かなかった。

教室の隅に座っていた女子高生2人組にも話を聞いた。2人はノルウェーが強制的に物品を没収するようにはなってほしくないようだ。

エマ(左)とマチルデ(右)Photo:Asaki Abumi
エマ(左)とマチルデ(右)Photo:Asaki Abumi

女子高生も、政治について自分の意見をもっている

エマ・ホーヴィン(18)

「ノルウェーは裕福だから、そんなにお金をとることはないと思うの。私たちはもう十分に恵まれているわ。問題を長期的に考えようと主張する政治家の意見もわかるけど、宝石法は理解するのに苦しむわ」

マチルデ・リーニェスタ(17)

「お金はきて、なくなるものだけど、モノは違う。一個しかない。例えば、このセーターは2度と見つけることができない、個人的なものよ」

生徒の疑問をテーマに議論していく、学校が教員を信頼し、判断を任せたプログラム

この授業では、ノルウェー政権や移民・社会統合大臣の政策など、さまざまな現代の政治問題を議論・批判する。教員に、なぜこの宝石法を選んだのかと授業中に聞いたところ、意外な答えが返ってきた。

「あぁ、それはこのクラスにデンマーク人の生徒がいるからだよ。ガーディアン紙がデンマークの風刺画を掲載して、自分の国が激しく非難されていることに、ふてくされていてね。この前の授業で彼女がそのことを抗議していたから、テーマとして取り上げて、話し合うことにしたんだ」。

その瞬間、教室は笑いに包まれ、取材したばかりのマチルデ・リーニェスタさんが、ニヤリと笑っていた。彼女の父親はデンマーク人、母親はノルウェー人だそうだ。彼女のモヤモヤをはらすために、取り上げられたテーマだったのだ。

教科書や黒板を黙々と見つめることはしない。生徒に批判的思考を養わせる「議論」に重点を置いた授業。こういう授業、筆者も受けたかったなと思った。

Photo&Text:Asaki Abumi