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全米の4人に1人が「ワクチン打たない」反ワクチン運動や職場訴訟も(動画あり)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
教会の外で、ファウチ医師らに抗議する人々。(c) Kasumi Abe

摂氏34度の夏日となった6日午後4時過ぎ、ニューヨークのハーレム地区にある教会の前は多くの人が集まり騒然となった。

米国立アレルギー・​感染症研究所の所長、アンソニー・ファウチ医師とバイデン大統領夫人のジル・バイデン博士が共にAbyssinian Baptist Churchを訪れ、教会関係者、医療従事者、接種を受けに来た人々をねぎらった。この教会は今年1月以来、新型コロナウイルスのワクチン接種会場として使用されており、これまで1万2000人以上がここで接種を受けてきた。

ニューヨークではワクチン接種数の浸透と共に感染者数も減っており、先月19日より大規模な経済活動が再開した。

ニューヨーク州では少なくとも1回の接種を受けた18歳以上は68.6%。

この国で教会とは、人々の心の拠り所として、地域住民にとって欠かせない要の場所だ。社会的に弱い立場の人々にとっては尚更である。そのような神聖な場所が今、感染防止の最前線として大活用されている。

「特にブラック&ブラウン・コミュニティー(新型コロナで打撃を受けた黒人層やヒスパニック層が多く住む地域)であるハーレム地区の教会が接種会場になり、2人が視察してくれたことは意義深い」と、同教会のカルヴィン・バッツ牧師は地元メディアを通して語った。

日曜日の午後、ファーストレディーのバイデン博士とファウチ医師が接種会場として使われているNYの教会を訪れ人々を激励した。
日曜日の午後、ファーストレディーのバイデン博士とファウチ医師が接種会場として使われているNYの教会を訪れ人々を激励した。写真:ロイター/アフロ

接種を受けに来た人と握手をするファウチ博士。
接種を受けに来た人と握手をするファウチ博士。写真:ロイター/アフロ

ファウチ医師とバイデン博士が訪れ、現場を激励した時の映像

一方で会場外では、ワクチン接種反対派の人々による抗議活動も同時に行われていた。

ホワイトハウスの発表では、米国内で新型コロナワクチンを少なくとも1回接種を受けた成人は63%に、1回もしくは2回の接種を「完了」したのは52%に達している。

バイデン政権は来月の独立記念日(7月4日)までに「成人の70%が少なくとも1回の接種を受ける」という目標を掲げており、すでに70%を達成したのは12州となっている。全米で見てもあともう少しといったところだ。しかしワクチン反対派による抗議活動を見る限り、簡単な道のりとも決して言えないようだ。

なぜなら、これまでの数々の調査で、アメリカ国内のおよそ25%の成人が、ワクチン接種を受けるつもりはない、もしくは未定とされている。

その25%にあたる人々の一部がこの日抗議活動を行い、「私たち国民に選択の自由がある」「ワクチン必須な世の中なんて御免だ」「我々は実験用ネズミではない」などと、ファウチ博士やバイデン博士の方針を強く批判した。

2人の視察中、教会周辺は通行止になった。(右)Fraud(欺く人)とFauci(ファウチ医師)の造語を掲げた人。(c) Kasumi Abe
2人の視察中、教会周辺は通行止になった。(右)Fraud(欺く人)とFauci(ファウチ医師)の造語を掲げた人。(c) Kasumi Abe

「ニュルンベルク(裁判)で解決済みと思ったが。ファウチ=メンゲレ(人体実験を行ったナチス親衛隊の医師)」と訴える人。(c) Kasumi Abe
「ニュルンベルク(裁判)で解決済みと思ったが。ファウチ=メンゲレ(人体実験を行ったナチス親衛隊の医師)」と訴える人。(c) Kasumi Abe

ワクチンパスポートに異を唱える人。(c) Kasumi Abe
ワクチンパスポートに異を唱える人。(c) Kasumi Abe

市内ではすでに『レイトショー』などテレビの人気公開放送番組や、新たな観光スポット「リトルアイランド」の有料イベントなどさまざまな場所で、「入場するにはワクチン接種済み証明書が必要」という動きが出ている。

クオモ州知事も「今後ワクチンが完全に承認されれば、州立大学や市立大学の秋学期以降の対面授業には、接種完了の義務付けを予定」と発表した。

「スポーツ会場や大学などさまざまな場所でワクチンパスポートが必須なんてことになってはならない」と懸念するのは、「マスク、ワクチン、(歯磨き粉の)フッ素反対」という看板を掲げたショーンさん。

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

ただし現時点で成人の60%以上が少なくとも1回の接種を受けている現実を見れば、これらの反対派はごく一部の人々ということだろう。抗議の様子を離れた場所から冷ややかに見ていた近隣住民の男性は、ちょうど博士の視察中に息子がワクチン接種を受けに行ったため、外で待機中とのこと。CDC発行のワクチン接種完了カードを誇らしげに筆者に見せながら、デモについて「この人たちはクレイジーだと思う。やれやれ」と呆れ顔だった。

進む分断

ワクチン反対の動きは今や、訴訟問題にまで発展している。

米南部テキサス州のヒューストン・メソジスト病院(Houston Methodist Hospital)では、医師や看護師などこの病院に勤務するすべての医療従事者が現地時間の今日7日までにワクチン接種を受けるよう通達されている。接種を受けなければ2週間の無給待遇の処分を受け解雇もあるとし、「従業員にワクチンの臨床試験への参加を強制することは違法」と、117人が勤務先の病院を相手に訴える騒ぎになっている。

ファウチ博士とバイデン博士はハーレムの教会視察の翌7日朝、ABC局のトーク生番組『ライヴ・ウィズ・ケリー・アンド・​ライアン』に軽やかな表情で出演した。司会者にワクチン反対派についてどう思うかと聞かれ、バイデン博士は「接種はあなたのためだけではなく、あなたの周りの人のためでもあります」と答えた。

ホワイトハウスは出会い系アプリ9社とコラボするなどし、主に若い世代を対象にワクチン接種啓蒙活動に力を入れている。先月24日、ファウチ医師や人気ユーチューバーらと共に記者の前に現れたバイデン大統領は、このように訴えかけた。

(緊急事態下において)「ワクチン接種はあなただけの話ではない。これはオブリゲーション(人としての義務、責任)なのだ」

当日会場外のワクチン反対派のデモの映像

(Text, some photos and video by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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