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NYの炎上系ユーチューバー。ドッキリ企画の度が過ぎて御用

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
警察を巻き込んだが、全部「演技」だった。キャプチャは筆者が作成。

レッドオーシャンのユーチューブ界。少しでも視聴回数を稼いだりライバルに差をつけようと、中堅ユーチューバーの多くは必死だ。

観ていて気分が向上したり、世のためになったりする内容であれば誰からも文句は出ない。しかし中には、シャレにならないほど度が過ぎるものを作り拡散する者もおり、たびたび問題になる。

ただの炎上商法なのか、動画アップにのめり込んでいくうちに常識・非常識を線引きするネジが緩んでくるのか、人を傷つけることを平気で行ったり、他人を巻き込んで周囲や社会に迷惑をかけたりと、その非常識さたるや甚だしい。

ドッキリ企画の度が過ぎて御用

28日、お騒がせユーチューバーのPrince Zee(プリンスジー)こと、ジーシャン・サロヤ(Zeeshan Saroya)容疑者(30)が逮捕された。

Prince ZeeのYouTubeチャンネルは、15万9000人以上の登録者がいる。

サロヤ容疑者はニューヨークの中心地タイムズスクエアで1月10日午後3時ごろ、動画のドッキリ企画として、運転中に突然気を失った人物を装い、市警察や市消防局を出動させ騒ぎを起こした。

13分の動画は、容疑者らが綿密に企画を練っている段階から収録が始まる。そして「道路のど真ん中で突然運転手が気を失ったら、ニューヨーカーはどのような反応をするか、検証してみよう」と言っている。

容疑者は多くの警察を巻き込んだ。キャプチャは筆者が作成。
容疑者は多くの警察を巻き込んだ。キャプチャは筆者が作成。

動画の中でサロヤ容疑者は、突然車内で気を失った運転者を装い、頭をハンドルに打ち付けそのまま動かなくなった。周辺にいた警察は鳴り止まないクラクション音に気づいてすぐに集まり、車の窓ガラスを割って容疑者を救助した。

そのあと救急車も出動し、容疑者は自力で歩いて乗り込もうとしている。その後知人が迎えに来たため、容疑者は解放された。

容疑者は警察に破壊された車をチェックしながら、「この検証で最も大切なのは、警察も救急隊も行動が早かったということだ。この動画を観た視聴者は、おそらく自分のことを嫌いになっただろう」とコメントしている。

動画は25日にアップされすべてが作り話だったことが判明し、28日に行政妨害、虚偽の事故報告、迷惑行為などで逮捕、起訴となった。ただし、容疑者は出廷命令書を受け取った後、釈放となっている。

この動画は29日現在で16万回以上再生されている。コメントには「間違いだ」「まったく面白くない」「皮肉にも再生回数が伸びている」「逮捕されるべきだ」という至極真っ当な意見が多いが、トップには「登録者100万人を目指そう」と容疑者の間違った行動を煽っているものもある。また、低評価が2300に対して、高評価が8300と多い。

元祖、お騒がせユーチューバーは今

アメリカの元祖炎上系ユーチューバーと言えば、ローガン・ポール(Logan Paul)氏もその一人。現在25歳となった彼は、俳優やシンガー、ボクサーとしての顔も持つ。ユーチューバーとしても健在で、メインチャンネル登録者は2280万人、2つのサブチャンネル登録者は515万人と9万6900人で、安定の大人気を誇っている。

2018年、ボクサーデビューを果たした際の記者会見。
2018年、ボクサーデビューを果たした際の記者会見。写真:ロイター/アフロ

ポール氏が炎上したのは、2017年12月31日にアップした動画だ。日本を訪れた際、山梨県青木ヶ原樹海で自殺した男性の遺体を録画してユーチューブに上げ、これが大炎上した。

当時チャンネル登録者数は約1500万人で、この動画はすぐに削除されたが、アップから24時間以内に630万回も再生された。

ほかにもポール氏は日本滞在中、築地市場でフォークリフトに勝手に乗りこんだり、人混みの中で服を脱いだりとお騒がせ&いたずら行為をし、大批判された。

2018年1月2日にアップした謝罪動画は、5900万人以上が視聴している。ユーチューブ社はその8日後、ポール氏のチャンネルをGoogle Preferredや優先広告プログラムなどから削除すると発表し、一時的に広告出稿も不可措置を取ったが、同社CEOのスーザン・ウォジスキー(Susan Wojcicki)氏は、ポール氏は同社の規約に違反しておらず、チャンネルを削除しない方針を発表した。

自らの行いを反省したポール氏は同年1月24日、自殺予防の啓蒙動画を発信し、これまでに3000万人が視聴している。

動画の中で、ポール氏は自殺防止団体へ寄付したことも語った。また、専門家への取材を通し、自殺を引き止めるために周りがやるべきこととして「尋ね、話をひたすら聞き、一緒にいて、繋がることを手助けし、気にかけてあげること」が大切だと話した。

アメリカのみならず、日本でもたびたび問題になっているユーチューバーやインフルエンサーの不祥事や行き過ぎた問題行動。せっかく知名度や社会的認知を手に入れることができたのなら、おふざけはほどほどに、少しでも人を救ったり社会のためになる行動を取るべきだろう。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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