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コロナと闘った111日 NYクオモ知事が第1波収束宣言(ウイルスとの共存は続いていく・・・)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
地下鉄従業員とエルボーバンプを交わし激励するクオモ知事。(写真:REX/アフロ)

クラクション音、工事現場の音、個人打ち上げの(違法)花火音、ヘリの音、スピーカーから流れる無国籍音楽、人々の笑い声、鳥のさえずり・・・。

この街にようやく「雑音」と活気が戻ってきた。まだ開いていない店も多く100%の活気とはいかないまでも、4月までは救急車のサイレン音しか聞こえなかったのだから、多少の雑音も「ニューヨークらしく」一種の懐かしささえ覚える。

「私たちは共に力を合わせ、この現状をもたらした。今後より強くなり、より良いもの(社会)を構築する」

6月19日、ニューヨーク州のクオモ知事は新型コロナウイルスの第1波収束宣言をし、人々を讃え、毎日欠かさず行ってきた記者会見を一旦終了すると発表した。

  • この日はちょうどJuneteenth(ジューンティーンス=黒人奴隷解放記念日)。州では来年から公式に祝日になることが発表された。

州内で初の感染者が確認された3月1日から111日間、知事は医療専門家を含む対策チームらと共に、1日も休むことなく会見を開き、人々に「事実」を公表し続け、励ましてきた。

「『どうぞ働きに行かないで、家にいて』というようなことを人々にお願いするような知事がこれまでいただろうか。私は心が傷んだ。誰がそんな言葉に従うだろうか。だから私は初日にこのように決めた。データという『事実』のみを人々に公表しよう。そして自分自身で考えて、行動してもらおうと」

人々の行動は、以下のような現状の数値をもたらした。(いずれも6月18日)

1日のウイルス検査実施数:7万9000(過去最高)

感染率(陽性率):0.9%

現在の入院患者数:1284人(過去最少)

1日の死者数:25人

感染率も入院患者数も最小値に

ニューヨーク州内で行ったウイルス検査の感染率(陽性率)と、現在の入院患者数のそれぞれの推移を表すグラフはこちらだ。

感染率はピーク時50.4%までに上った。出典:クオモ知事の記者会見(以下同)
感染率はピーク時50.4%までに上った。出典:クオモ知事の記者会見(以下同)
今もなお1300人近くが入院するが、3月19日以来の最小値となっている。
今もなお1300人近くが入院するが、3月19日以来の最小値となっている。

111日のうち上昇は42日間、下降は69日間続いた。

後半は感染者が自宅待機している人に拡大していったが、前半ではロックダウン(ステイホーム)がすぐに功を奏したことがわかる。

1日の死者数700+→ 20+と大幅減少

4月上旬はまさに戦場だった。毎日信じられない数の人々が亡くなった。特に4月6日を境に、1日の死者の数が500人台から一気に700人台にまで増え、この状態が1週間ほど続いた。6月半ばの現在、1日の死者数は20〜30人前後と最小値が続いている。死者には癌患者やほかの持病がある感染者が含まれているため、死者0人にはならないのではないかというのが州の見立てだ。

最悪期だった4月上旬から中旬にかけて、信じられないほど多くの人々が毎日コロナで亡くなった。
最悪期だった4月上旬から中旬にかけて、信じられないほど多くの人々が毎日コロナで亡くなった。
ここ最近の死者数の推移。
ここ最近の死者数の推移。

NY市、経済活動再開フェーズ2へ移行

第1波の感染封じ込めに成功したニューヨークは、少しずつ以前に近い状況に戻り始めている。

市内の経済活動再開の現状は、フェーズ4のうちのフェーズ1のみで、エッセンシャル業に加え製造業、建築業、店舗でのピックアップなどだけが稼働しているが、6月22日からはいよいよフェーズ2に突入する。フェーズ2では、占有率50%という条件でオフィスが再開でき、不動産業や自動車業、そして(さまざまな条件付きで)レストランの屋外スペースや美容院などもオープン可となる。

公共の場ではマスク着用が義務付けられ、人々は握手をする代わりにエアーハグやエルボーバンプで挨拶するなど(冒頭の写真)、この111日で新たな習慣が生まれた。また、この3ヵ月の間に新たに行動したことや学んだことが、誰でもきっとあるのではないだろうか。これらのニューノーマル、困難から学んだ知識や経験を取り入れながら、「より強い絆でウィズコロナの世界を共に生き抜こう」と人々が今、再び立ち上がった。

しかし忘れてはならないことは、まだコロナ戦争は終わっていないということだ。これからも数値を常に厳しくモニタリングしながら、感染の波が上昇したら躊躇なくロックダウンすると、知事は警告している。

アメリカ全体で見ると、感染の流行の波はいまだ減少していない。IHME(保健指標評価研究所)による10月までの全米の死者数予想は、この1週間で4万人近く増え20万1129人になっている。経済活動が再開したフロリダ州やアリゾナ州など一部の州では第2波が起こっている。そこから新たなウイルスがニューヨークに持ち込まれたり、活動再開した場所での集団感染などは充分ありうる。1918年に発生したスペイン風邪は、第2波の方が大きかったため、今後も充分な注意が必要だ。

3/22(ロックダウン開始日)

NY州

感染確認総数 1万5168件

死者114人

NY市

感染確認総数 9045件

死者99人

6/19(NY州で初感染確認から111日、ロックダウンから3ヵ月後)

NY州

感染確認総数 38万6000件

死者2万4661人

NY市

感染確認総数 21万1000件

死者1万7389人

  • 数字はクオモ州知事やメディアの発表を参照。病院の集計がもとだが、コロナ診断されていない死者や在宅死などの関係で、数字には多少の差異がある。

関連記事(111日間のタイムライン)

3月頭:NY州で初感染者が確認

3月半ば:スーパーから物がなくなった

3月下旬:ロックダウン開始

4月下旬:ロックダウンから1ヵ月

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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