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外出制限後もNYで多くの感染者が出続けるのはなぜ? 最新調査データと意外な結果【新型コロナ】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のアメリカ最大の感染拡大スポットとなっているニューヨーク州。ロックダウン(外出制限)から1ヵ月半が経ち、新規症例数、総入院患者数(アメリカで入院患者=重症者)、死者数が日々減少し続けているのは、以前の記事に書いた。

アメリカ全体では今も新型コロナウイルスの流行を表す曲線が上がり続けている中、ニューヨーク州でこのように減少しているのは、ロックダウンの成果と言えるだろう。

3月20日以降の曲線。出典:クオモ知事の5月6日の会見のキャプチャ(以下同)
3月20日以降の曲線。出典:クオモ知事の5月6日の会見のキャプチャ(以下同)

しかし日々の新規で確認された症例の数や死者の数が少ないのか?と言えば、まだ驚くほど多い。

ニューヨーク州で新たに発表された症例数は、5月5日だけで2239件、うち重症の新規入院患者数は(3日間平均)601人、死者数は232人だ。(一概に比較はできないが、ちなみに東京都内で同日発表された新規感染者数は38人、死者5人)

「ロックダウンなど、州としてできることはすべて手を尽くした。しかしなぜ今もなお新たに重症患者が毎日平均600件も出ているのか? この新規感染者がどこから来ているのかを知りたい」

クオモ知事は6日の記者会見でこう述べた。

  • ニューヨークでは基本的に、コロナの軽症だとされる人は受診したりウイルス検査(日本でいうPCR検査)をしたりすることがなかなかできない。よって感染者として確認された人というのはつまり、ある程度「重め」の症状がある人ということになる。そこからさらに重い症状の人は入院治療となり、それ以外の人は自宅療養となる。

ロックダウン開始日と現在の比較

3/22(ロックダウン開始日)

NY州

感染確認 1万5168件

死者114人

NY市

感染確認 9045件

死者99人

5/6(ロックダウンから46日後)

NY州

感染確認 32万6659件

死者2万5028人

NY市

感染確認 18万2318件

死者1万8719人

  • 数字はクオモ州知事の発表やニューヨークタイムズなどを参照。病院の集計がもとだが、コロナ診断されていない死者や在宅死などの関係で、数字には多少の差異がある。

クオモ知事は「次にやるべきことは、これまで着手していなかったカテゴリーの調査と数字による分析だ」と、先日州内の病院で患者についての調査を行ったことを発表した。

仮の調査でわかった最近(ロックダウンから1.5ヵ月後)の傾向

州では3日間にわたり、113の病院で聞き取り調査を行った。結果、患者1269人分の回答が得られた。以下はあくまでも、現段階でわかった「仮の集計結果」として発表された。

新規の入院患者(=重症者)が多いのは・・・?

■ニューヨーク市、ダウンステート(州南部)が多い

ダウンステート(州南部):マンハッタン周辺が21%、ロングアイランド周辺18%、ブルックリン周辺とクイーンズ周辺がそれぞれ13%、ブロンクス周辺が9%

アップステート(州北部):ウエストチェスター周辺11%、リッチモンド周辺1%、その他14%

ニューヨーク州全体では入院患者は減少していても、市内では微増。

NYC has ‘work to do’ as coronavirus hospitalizations rise, de Blasio says

■有色人種(マイノリティ)の方が多い

(ニューヨーク市内では)

有色人種が計53%(アフリカンアメリカン25%、ヒスパニック&ラテン系20%、アジア系8%)

白人24%

■男性の方が多い

男性52%

女性48%

■持病のある人が圧倒的に多い

持病のある人96%

持病のない人4%

■年配者が多い

年齢は50代から徐々に増える。一番多いのは61〜70歳、次が71〜80歳

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以上の結果は、これまで専門家により発表されてきたものと大きな相違はない。

しかし、驚くべきことは以下の結果だ。

新たに判明した意外な結果。入院患者(重症者)が罹患したであろう場所は・・・?

■自宅からの搬送が圧倒的に多い

その他8%

特別養護老人ホーム18%

刑務所1%以下

ホームレス2%

自宅66%

集会、礼拝所、葬儀など人が多く集まる場所2%

介助者付き居住施設4%

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■無職が多い

働いている人17%

退職者37%

失業もしくはもとから無職で働いていない人46%

  • 感染者の多くはエッセンシャルワーカーではないかと言われてきたが、最近の傾向は必ずしもそうではない。

■日々の移動手段は?

(ニューヨーク市内では)

カーサービス(タクシー、ウーバーなど)1%

自家用車3%

公共交通機関(地下鉄、電車、バス)3%

徒歩 2%

N/A(在宅勤務で何も利用していない、など)90%

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  • 郊外になると自家用車9%だが、それでもN/A(何も利用していない、など)が84%
  • 感染者の多くはエッセンシャルワーカーで通勤のため公共交通機関を頻繁に利用しているのではないかと言われてきたが、最近の傾向は必ずしもそうではない。

つまり、ロックダウン後の今も重症化する新規感染者の「仮の傾向」として以下のことがわかった。

  • 働いていない
  • エッセンシャルワーカーではない
  • (仕事などで)あちこち行き来していない
  • 搬送されたのは自宅から
  • ニューヨーク市など州南部に住む
  • 人種はマイノリティ
  • 年配者(51歳以上)

家庭内感染か?

人々が外出自粛をしても多くの感染者が出続け、しかも最近は無職の在宅者に重症者が多いのは、おそらくちょっとした外出時に感染してしまったり、家族や友人が外出時に感染し無症状のまま、自宅待機している高齢者や持病のある人に家庭内で感染させているケースなのだろう。

また知事からはコメントがなかったが、この調査結果にエッセンシャルワーカーが入っていない理由について筆者が思ったのは、軽症のため受診できていないのかもしれない。そしてはじめは軽症で自宅待機&療養をしていたが、突然症状が悪化し病院に運ばれるケースも多いのかもしれない。

どちらにせよ、私たちが引き続きやっていくべきことは、個々が基本に立ち戻ることしかないように思う。言われ続けているようにマスクを着用し、手洗いを徹底し、社会的距離を確保し、家にいて、お年寄りや持病のある人たちに感染させぬということだ。

「今、我々の正面に立ちはだかっているのは、歴史的にも稀にみる困難へのチャレンジだ。しかし911(同時多発テロ)やハリケーンサンディを乗り越え、その後より良い社会を再構築したように、もう一度 “Build Back Better”

起こったことをデータに基づき構築し、より良い未来へ前進しようと、知事はこの日も人々を鼓舞激励した。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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