Yahoo!ニュース

外国人観光客のゴミ放置や富士山撮影の騒動...アメリカにもあるオーバーツーリズム問題

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ニューヨーク、ブルックリンのダンボ地区。© Kasumi Abe

つい先日、日本のあるコンビニエンスストアの前に世界中から外国人観光客が殺到していると、ニュースになっていた。

山梨県富士河口湖町にあるローソンの屋根に富士山が乗ったように見えるとして話題になっていたのだが、同時に数々のマナー違反が指摘されていた。

この写真スポットの噂はSNSやネットの情報で世界中に広がっていったようだ。

  • 米ソーシャルニュースサイト、Reddit
  • 英大衆メディア、デイリーメール(昨年7月4日付)は「息を呑むほど美しい景色」「世界でもっとも美しいコンビニ」などと紹介

富士山ローソンと呼ばれる場所で、富士山を背景に記念撮影をする人。
富士山ローソンと呼ばれる場所で、富士山を背景に記念撮影をする人。写真:ロイター/アフロ

しかし写真撮影のために大勢の外国人観光客が店舗前の狭い歩道や駐車場に集まり、中には駐車場で車の妨害となったり、車道を好き勝手に横断したり、ゴミを放置したまま立ち去るなどの迷惑行為が絶えなかったという。結局、町の判断で向かいにある歩道に富士山の目隠しとなる黒幕が設置されることになった。

この対策は早速、英ガーディアンが「行儀の悪い外国人観光客の群衆に業を煮やし、富士山の眺望を遮る巨大な柵が設置」と報じた。

オーバーツーリズム問題は日本でたびたび起こっている。京都の祇園地区では今年4月から細い路地への観光客の立ち入りを制限する措置が始まったばかりだ。

筆者はこの富士山ローソンの騒動をきっかけに、いくつか海外の事情と照らし合わせてみた。

海外には富士山ファンが多い

まず富士山の知名度について。

海外ではMt. Fuji(マウントフジ)として名が知られている。もちろんあまり知らない人もいるが、そもそも日本を観光する人は日本に興味がある人だから、その神々しい日本の象徴を一度は見てみたい(登ってみたい)と思うのは無理もない。

海外の知識層に高く評価される浮世絵でも富士山は有名。葛飾北斎の「富嶽三十六景 凱風快晴」。
海外の知識層に高く評価される浮世絵でも富士山は有名。葛飾北斎の「富嶽三十六景 凱風快晴」。提供:アフロ

騒音、横断、ゴミetc...マナーの尺度が違う

マナーについて。日本と海外ではマナーの尺度が違うので、それがさらにトラブルの元になっているのだろう。

例えば一言で騒音と言っても、その尺度は日本と海外でまったく異なる。ニューヨークの道路ではクラクションが鳴りまくっているのが普通の光景だが、日本だと喧嘩になるだろう。

またアメリカなど海外では、横断歩道がなくても(もしくは横断歩道があり信号が赤でも)車が通っていなければ、歩行者は車道を横断する。(車が通っていないのに信号が赤だからとジッと待つ人は皆無)

ゴミの放置は、京都でも問題になっている。海外ではゴミはゴミ箱に捨てるものであり(治安が悪い場所は道路に散乱)、ゴミを「持ち帰る」習慣はない。筆者は日本に帰国のたびに、街中にゴミ箱が設置されていないのにゴミが落ちていないことに驚く。なぜならアメリカの都市部ではゴミ箱があるのにゴミが散乱していたりするから。

観光客で混雑する京都・嵐山。海外には「ゴミの持ち帰り」という概念がない。
観光客で混雑する京都・嵐山。海外には「ゴミの持ち帰り」という概念がない。写真:長田洋平/アフロ

アメリカでもあるオーバーツーリズム問題

もう一つ。この富士山ローソンのようなオーバーツーリズムの問題は、おそらく世界中の観光地でも起こっているだろうと察する。実際にアメリカでも同じような問題が起こっている。

ニューヨークのブルックリン区ダンボ地区。ここは市内でも高級エリアの一つだ。倉庫跡地を利用した商業施設があり、川の向こうの摩天楼の眺望も素晴らしいことから世界中から観光客がやって来る。

この一角にあるワシントン通りに万年、多くの観光客が大挙して押し寄せ、車道で写真を撮っている。

素敵な石畳と、両サイドのレンガ壁のビルが絵になる場所。奥にはマンハッタン橋を望む絶景スポットだ。橋の下にはるか向こうのエンパイアステートビルまで見える。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』など映画のロケ地としても知られる場所。

インスタグラムがはやるようになった約10年前から、見る見るうちに観光客が集まるようになった。一般の観光客に加え、ウエディング写真を撮影する人までいる。

冒頭の写真の寄りの図(道路両脇は駐車中の車の列)。地元では「セルフィーストリート」と呼ばれている場所。車道に観光客が殺到し、車の通行の妨害になっていた。© Kasumi Abe
冒頭の写真の寄りの図(道路両脇は駐車中の車の列)。地元では「セルフィーストリート」と呼ばれている場所。車道に観光客が殺到し、車の通行の妨害になっていた。© Kasumi Abe

ここでは我が物顔で道路を塞ぐ観光客が交通の妨げになるとあり、以前より地元住民から苦情が出ていた。

NY1の記事(2019年)には「一歩外に出ると、世界中の人がそこかしこで撮影している。この地区は好きだが落ち着けない」「子どもと通りをゆっくり歩けず、まったく以てイライラする」などの声が紹介されている。

この時、安全のためと混雑を解消するため、通りの一角を歩行者天国にする案が浮上していた。

インスタ映えスポット。天気の良い日には橋の下にマンハッタンのアイコンビル、エンパイアステートビルを望む。© Kasumi Abe
インスタ映えスポット。天気の良い日には橋の下にマンハッタンのアイコンビル、エンパイアステートビルを望む。© Kasumi Abe

その後、歩行者天国プランは毎日10時間に限り実施されるようになった。これで問題が解消かと思いきや、対策をしたらしたで、新たな問題が浮上するようになった。

コロナ禍明けに観光客が戻り、さらに大勢の人々がここに押し寄せ、道を埋め尽くすようになったのだ。

近隣の住民や商売人からは「さらにお祭り騒ぎのような場になった」「近くに公園があるのになぜ一般道を開放する必要があるか」「駐車スペースが少なくなった」「運搬車が近くに入れず配達に時間がかかる」「高い税金が投入されこのような措置が講じられたのは納得できない」「ディズニーランドに住むためにこの地区を選んだわけではない」などの苦情が絶えない。中には脇の飲食店で何も頼まず、屋外テーブルで休憩する人もいるのだとか。2022年、ニューヨークポストは「絶え間ない観光客の往来で地元住民は息苦しさを感じている」と報じた。

ただし反対派ばかりではない。観光客が集まることでビジネスが促進された店もあるという。また住民の中には歩行者天国を支持している人もいる。ある人は「幼い子どもと散歩の際、車が通らないので安心だし移動が楽。(歩行者天国は)地区への恩恵だと思う」と話した。

またこのダンボ地区とは別に、筆者は以前、人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』の主人公キャリーのアパート前での一悶着を目撃したことがある。

ドラマに登場した実在するアパートの入り口付近では、多くの観光客が記念撮影をしていた。これが毎日となると住民はまったく落ち着かないだろう。入り口付近には柵が敷かれていたが、そのうち住民と思しき年配の男性が表に出てきて「近づくな」とそこらじゅうの人々に怒鳴りながら追い払っていた。

おそらく世界中の観光地には同様のケースが山ほどあるだろう。観光客が地元住民の平穏な暮らしを脅かすことがあってはならない。そこで暮らす人々に敬意を払い、その国や地方の文化や習慣を遵守し迷惑をかけないことは、観光で訪れる際の最低限のマナーと言えるだろう。

オーサーコメント

(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

安部かすみの最近の記事