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避難者帰国、窓なしチャーター機が米空軍基地へ 厳重警戒で36時間封鎖か【新型肺炎】

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
武漢からの米国人避難者を乗せ、カリフォルニアの空軍基地に到着した窓なしカーゴ便。(写真:ロイター/アフロ)

Updated: アメリカ当局は1月31日、帰国者195人の一時収容について、非常事態による例外として当初の72時間から14日間に延長すると発表しました。「事実上、避難者に与えられた選択肢はないことを意味する」とニューヨークタイムズ紙は報道しています。

新型コロナウイルスが蔓延する中国・武漢市から、在住外国人が政府の支援により続々と帰国している。

日本では29日、武漢在住の日本人206人が政府によるチャーター便で帰国し、羽田空港に到着した。一方アメリカでも29日(日本時間30日)、アメリカ人201人が乗るチャーター便(貨物機)が帰国の途についた。

日本とアメリカでは時差も含めて到着が半日違いの脱出劇となったが、いくつか異なる点が見られた。

武漢在住アメリカ人避難者を乗せたチャーター便がアメリカ・カリフォルニア州に到着したのは、現地時間の29日午前8時過ぎ。同州リバーサイド郡にあるマーチ空軍予備役基地にチャーター機が降り立った。ABC7の映像

このチャーター機は、武漢市を現地時間29日に出発し、給油のためにアラスカ州アンカレッジ自治市の空港に立ち寄っている。搭乗者はまず武漢で出発前の健康診断を2度受けた後、アンカレッジの疾病管理予防センターでもさらに2度スクリーニングを受け、全員が健康状態に問題ないと判断され、最終地のカリフォルニアに到着した。ここでも健康診断が待っているという。

チャーター機は窓のない貨物用の機体を使ったものと伝えられ、到着時は外から中の様子を確認できなかった。貨物機のドアが開くと、防護服を着た人々が帰国者を出迎えた。

後に報道された、機内の様子(ABCニュースのキャプチャ)。
後に報道された、機内の様子(ABCニュースのキャプチャ)。

同機は定員240人乗りで、当初はそのくらいの人数が帰国するとみられていたが、最終的な発表では201人であることがわかった。武漢のアメリカ大使館で働く外交官とその家族、そのほか在中アメリカ人のようだ。武漢市には約1,000人のアメリカ人が住んでいると言われているが、残りの800人がどうなるのかについての情報は今のところない。

空軍基地は最大36時間封鎖か

避難者は今のところ健康状態に問題はないとされているが、マーチ空軍予備役基地内には、彼らの一時収容施設が用意された。必ずしもここに滞在しなければならない「決まり」はないが、検査とモニタリングのため、3日間ここに滞在することを米当局側は「お伺い」しており、避難者は「異議なし」と語ったと、CNNでは報じられている。

ウイルステストで陰性判定が出て肺炎の兆候もみられない場合、避難者は3日後、引き続き滞在するか帰宅するかを選ぶ。その後は潜伏期間とされる14日間にわたって経過観察される。また避難者が3日以内にこの収容施設から出ることを要求した場合、「アメリカ政府が関与する最高レベルの議論」になるだろうとも報じられた。これは実質的に「3日間の強制収容」を示すだろう。

これについては、少し違った表現をするメディアも。ニューヨークポスト紙では、当局側からの発表として「乗客は検疫期間が終わるまで帰宅を許されないだろう」と報じている。権利と安全性が絡んだデリケートな問題なだけに、米メディアでもやや情報が輻輳している印象だ。

CNNの先に述べた記事では、アメリカ当局の発表として「帰国者は同基地内で再度幾度かのスクリーニングを受け、一時的な収容所に入れられる」とした。これが全員なのか一部の人なのか、またどのくらいの期間収容されるかなどは、明らかになっていない。

また先に述べたABC7の報道には、「マーチ空軍予備役基地は、避難者の到着後最大36時間封鎖される」という情報もある。どちらにせよ、チャーター機が到着後すぐに、疲労困憊であろう避難代表者らをメディアが囲んで記者会見が行われた日本とは違い、アメリカでは避難者の録画出演はあるが、帰国後の記者会見は行われない。

最終判断で空軍基地に変更

上記ABC7の報道では、アラスカ州最高医療責任者、アン・ジンク(Anne Zink)医師のコメントで、「チャーター機の乗務員への感染リスクを下げるため、乗務員は中国でも飛行機から降りず、また飛行中もずっと乗務員だけ機内の階段を上がった上階部分に留まり、乗客から完全隔離されていた」とした。

チャーター機は当初の予定では、カリフォルニア州のオンタリオ国際空港に到着する予定で、最大14日間一時滞在できる収容施設などを整えて避難者を迎え入れる計画だったが、米国務省の最終判断により到着地はマーチ空軍予備役基地に決まった。

さまざまな米識者が見解

今回のウイルス騒動について、さまざまな識者のコメントが散見される。

「健康的に問題のない乗客を隔離することは間違ったアプローチだ」と首をかしげる有識者もいる。先に述べたCNNは、ペンシルバニア大学ペレルマン医学部小児感染症が専門のポール・オフィット(Paul Offit)博士によるコメントを紹介。「アメリカでは年間3万5,000人を死に至らしめるインフルエンザだが、飛行機の乗客にインフルエンザ患者が出たからと言って、残りすべての乗客の検疫をするわけではないではないか」。

CDC(アメリカ疾病管理予防センター)の顧問、ウィリアム・シャフナー(William Schaffner)博士は、「この新型ウイルスについてはまだ多くのことが知られていないので、用心深くならざるを得ない」と反論。

また、同センターのクリス・ブラデン(Chris Braden)博士は、感染者の隔離の方法や避難者への接し方について、このように語っている。「バランスが大切だ。人々の保護、権利の尊重、そして周りの人々の安全性などの全体的なバランスだ。それらをうまく保ちながら、細心の注意を払って対処しなければ」。

インターネット上では心無い発言が過熱気味だ。フェイクニュースや噂に踊らされず、思いやりを持って冷静に、避難者を迎え入れるべきだろう。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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