私たちの生活にどう役立っている? ノーベル化学賞 過去の受賞研究
ますます難しくなるノーベル化学賞の予想
――ノーベル化学賞の受賞研究を予想するのは難しいって言うね。 「有機化学」のように化学にもさまざまな分類があるのですが、化学分野では、もともと「物理化学」や「生化学」というように物理学や生物学との境界に位置するような研究も多く行われてきたという特徴もあるのかもしれません。
物理学との接点に注目すると、1901年から初期の10年間の受賞者のうち、浸透圧を発見したファントホフさん(オランダ)、酸と塩基の定義で有名なアレニウスさん(スウェーデン)、化学平衡に関する研究を行ったオストワルドさん(ドイツ)の3人は、物理化学の創設者ともいわれています。ポーランド出身のマリ・キュリーさんは、1903年に物理学賞を、1911年に化学賞を受賞しています。また最近では、一見すると生理学医学賞なのでは? と思われるような人間の生体に関連する研究の受賞も多くなってきたように思います。 さらに、現在の研究ではコンピューターの発展によって計算化学や理論化学が盛んになったり、応用先として環境問題に取り組んだりなど、他の分野と一緒に研究を行うことも多く、「化学」という分野は物理学や生物学を含めたさまざまな分野と密接に関わっているといえそうです。 ――ますますどんな研究が受賞するのか考えるのが難しくなってきているってことだね。 それだけ化学が他の分野に影響を及ぼしていたり、多くの人に使われる技術になっていたり、化学という分野の広がりを示しているといえるかもしれませんね。 今年の受賞が発表された際にも、なぜこの研究が化学賞をとったのだろう? 何が“できるようになった”んだろう? それはどんなふうに人類に貢献したのだろう? なんて考えてみるのも楽しみ方の一つかもしれません。
ノーベル賞が発表されなかった年もあるの?
――なんだか今年の化学賞の発表も楽しみになってきたよ。 それはよかったです。ところで、ノーベル賞は1901年から毎年コンスタントに受賞者を発表していたというわけではないんです。 例えば化学賞では、過去に計8回ノーベル賞が授与されなかった年があります。主に第一次世界大戦(1914~1918年)と第二次世界大戦(1939~1945年)中のことです。 昨年は新型コロナウイルス感染症の影響で授賞式など一部がオンラインでの実施になりましたが、今年もノーベル賞の発表は行われるようです。世界中が注目するこのような賞が継続できていること自体が素晴らしいことなのかもしれません。 ノーベル化学賞が、少し立ち止まって今の生活で“できるようになったこと”に目を向けてみる、そして過去の時間の積み重ねに感謝してみる、そんなきっかけになれば幸いです。
◎日本科学未来館 科学コミュニケーター 竹腰麻由(たけこし・まゆ) 1993年、岐阜県生まれ。専門は有機化学。大学院にて光る分子を研究するなかで「科学と社会をつなぐ人が必要なはずだ」と思い、化学メーカーを経て、2018年10月より現職