「幸せは冷蔵庫の残り物で作る料理にある」――秋元康が語るスター、ヒット、自分
自分も大衆の一人であることを忘れていた
大衆というのは、理屈ではなく感覚で動くものだと考えている。目を引くきっかけを作らなければならない。 「古舘伊知郎さんに聞いた話ですが、昔の香具師(やし、露天商)は、往来を歩く人の足を止めるために『ヘビは飛ぶよ』って言うんですって。『これ、いいですよ。買ってください』と言っても誰も聞かないけど、『え、ヘビは飛ばないでしょ?』と振り向いてくれる。作品や番組に『ヘビは飛ぶよ』があるか、自問自答します。頭に引っかかる『あの』があるか。AKB48という名前を覚えていなくても、『ほら、あの秋葉原でやってる子たち』という『あの』。大衆という一団の無関心さに対し、どうやって足を止めてもらうかを考えています」 40歳くらいのころにふと、自分も大衆の一人であることを忘れていると気づいた。 「『視聴者はこういうのを求めてる』『この時間帯はこういうのが絶対いい』とか、自分はそんなものを見ないのに、勝手に思い込んでいる。そこにうぬぼれがあるわけですよ。自分が面白いと思わなきゃ、誰も面白いと思ってくれない」
「好奇心のドミノは、自分が倒さないと倒れていかない」と語る。 「最初は友達や家族の間で、その魅力に惹かれて身内のドミノが倒れる。今度はオーディションで審査員が倒れて、スタッフが倒れて、マネージャーが倒れて、演出家が倒れて……。最後にテレビや映画の向こう側にたどり着く。そういう熱量がないと、僕らの仕事は止まってしまう」 アイドルについて、100人いれば100通りのアイドル論があり、メンバーやファン、スタッフと同じ価値観で、同じ方向性を目指すのは難しいと言う。 「賛否は真摯に受け止めます。ファンの人たちやネット上の意見をスタッフが渡してくれて読むことは多いですね。そういう受け取られ方をしてしまうのかと残念に思う時もありますし、思いが足りなかったと反省する時もある。決していつも自分が正しいとは思わない」 反響は、「何百万枚売れた」という数字よりも言葉で感じとる。 「『幼稚園の卒園式で歌ったんです』とか。アイドルの場合、アイドル村の皆さんはすごく大事なんだけど、もう身内ですよね。AKB 48をよく知らない人が『恋するフォーチュンクッキー』を踊ってくれたとか、村の外の人たちが評価してくれることを目指さなくてはいけない」