「親に会いたい」見過ごされてきた小さき声─“子どもの声”に耳を傾ける活動の広がり
子どもが意見表明しやすい環境を
子どもアドボカシーが注目されるようになった背景には、子どもが声を上げても助けられなかった事件の多発がある。 東京都目黒区では2018年に船戸結愛ちゃん(当時5歳)が、千葉県野田市では19年に栗原心愛さん(当時10歳)が、いずれも父親から暴力を受けた末に命を落とした。心愛さんは学校のアンケートで「先生、どうにかできませんか」と暴力の事実を訴えていたが、その声は真摯に受け止められることはなく、最悪の事態につながった。 声を上げられない子どもたち、声は発せられているのに耳を傾けない大人たち。そうした実態をなくそうと、厚生労働省はアドボカシーの制度化を進めている。新たな社会的養育の在り方に関する検討会が2017年にまとめた「新しい社会的養育ビジョン」は、アドボカシーを明記。2022年6月に成立した改正児童福祉法では、主に社会的養護下の子どもが意見表明をしやすいよう、都道府県が環境整備をするとされた。厚労省によると、社会的養護下の子どもたちは現在、4万人を超える。
アドボカシーは英国での取り組みが先進的だ。 大分大学の栄留里美講師によると、英国では子どもの処遇を決めるときに、子どもの声を聴くことが法律で規定されている。その会議には子どもがアドボケイトと一緒に参加でき、アドボケイトに代理参加してもらうこともできる。 「会議に参加する人や、用意するお菓子も子ども自身が決めることができます。本人の希望がすべてかなうとは限りませんが、子どもはプロセスを重視します。『勝手に決められたのではない』という思いがあれば、納得につながります」 専門のアドボケイトだけでなく、教師や福祉職、親や近所の人、友達や同じ背景を持つ人などにもアドボカシーの役割があるという。
大人の考える「子どもの最善の利益」が子どもの希望と反することもある。それでも、「アドボカシーはあくまで子どもの声を聴いて寄り添うことを重視します。大人目線で子どもの利益を考えるのではありません」と栄留さんは言い切る。