「親に会いたい」見過ごされてきた小さき声─“子どもの声”に耳を傾ける活動の広がり
願いは一つ「親に会いたい」
山本さんは親を頼れなかったため大学進学を諦め、高校卒業後は陸上自衛隊に入隊した。そして、難病を発症してしまう。2年ほどで除隊。体の自由が利かなくなり、今は一日の大半をベッドの上で過ごしている。
病気が進行していた山本さんは「子どもアドボカシー養成講座」の後、医師から気管切開を提案された。手術をすれば声を失ってしまう。 「延命措置を拒否することも考えましたが、ここで死ぬわけにはいかない、と……気管切開を受けることにしました。ただ、声を失う前にもう一度、私の話を聴いてもらえないかな、と」 山本さんはそう願ったという。養成講座で自らの境遇を語った際、涙を流して聴いている参加者がいたことを知って、語り、伝えることの大切さと楽しさを実感したからだ。講座を共催していた熊本市のNPO法人トナリビトに相談し、オンラインで山本さんの話を聴く会が急遽企画された。開催は12月中旬。山本さんは自宅のベッドに置かれたパソコンを通じ、自らの生い立ちを語った。今度の聴衆は全国、人数は約180人を数えた。 ――かなえたい願いはありますか。 参加者からそう問われた山本さんは、パソコンに向かってこう答えた。 「親に会いたい。実母の顔は思い出せませんが、幸せに暮らしていたらいいなと思います。そして、たまに私のことを思い出してくれたらいいな」 自らの希望がかなわなかった子ども時代。そこを駆け抜けた山本さんは今、大学生になった。熊本学園大学に通い、社会福祉を勉強。念願だった一人暮らしも始めている。
声を上げれば居場所を失う不安も
山本さんの背中を押しているのは、NPO法人トナリビトだ。 代表理事の山下祈恵さん(36)は米国に留学中、ある女性と知り合う。彼女は生後1カ月のとき、熊本県内の児童養護施設から米国人夫妻の養子になっていた。それをきっかけに社会的養護に関心を持った山下さんは帰国後、施設を訪問して子どもたちの相談を受けたり、児相や親との面談の場に同行したり、独自にアドボカシー活動に取り組んできた。親を頼れない若者のためのシェアハウスや居場所スペースも運営する。