恋愛、治療薬、運動会もNG――宗教2世の漫画家が語った「生きづらさ」と「銃撃事件」
安倍晋三元首相への銃撃事件をきっかけに注目されている「宗教2世」問題。信者である親は「宗教ありき」で暮らすため、子どもは「人を好きになってはいけない」「学校行事に参加してはいけない」など特殊な制約が課せられることが少なくない。漫画家の菊池真理子さん(49)は宗教2世で、2年ほど前から同じ2世たちを取材し、漫画で描いてきた。宗教2世が抱えてきた生きづらさとは何か、菊池さんに聞いた。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
虐待のような特殊な教義
──宗教2世の子たちを描くことにしたきっかけは何でしょうか。 「2年前の秋、宗教2世をテーマにしたトークショーのイベントを開いたんです。私自身も宗教2世で、同じような2世の3人でトークをしたところ、そこに集英社の編集者のかたもいて、『宗教2世に関する漫画を描きませんか』と声がかかったのです。そこで、その時のトークでゲストだったiidabiiさんという詩人のかたに、改めて取材をさせてもらったのが1人目でした」 ──どのように聞いたのでしょうか。 「まずそのかたの境遇を時系列で丁寧に聞いていきました。この宗教はこういうものだよと団体を描くより、この人はこんなふうに生きてきたんだよと個人を描きたかったからです。宗教の教義はそれぞれさまざまですが、極端な教義は子どもにとって虐待にもあたると思います。でも、そういう団体のありようを前に出すのではなく、個別の体験を描く。そうすることで、宗教2世に共通しているものが見えてくるんじゃないかと思ったんですね」
──その「共通しているもの」とは何だったのでしょうか。 「宗教2世って、一般常識とかけ離れた世界で生きてきているんですね。家庭で信者である親のもとで苦しんでいるのだけど、その親の後ろには何万人という信者と組織がある。さらにその後ろには、神様が罰を与えるぞと長年聞かされてきた教義がある。何重もの重圧があるんです。それゆえの『生きづらさ』を抱えています」 ある信者の子は、漫画や音楽、テレビ、さらには運動会も禁止。ある信者の子は、アトピーで皮膚がかゆくても薬を塗ることが禁止。ある信者の子は、「まことのお父様」に祝福されて結ばれた男女だけが神の血統を守るとされ、恋愛は禁止──。取材した7人の体験にはそれぞれ一般社会にはない制約が課されていた。