労働組合はなぜ弱体化したのか グーグルや大学生が結成の動き「本気で戦う組合必要」
そもそもベアの根拠となっていたのはインフレだ。物価が上がるから賃金も上げよという論理だ。だが、日本経済のデフレが続くなか、賃上げ要求は旗色が悪かった。デフレ経済ではベアは必要ない、という奥田会長の主張に必ずしも矛盾はなく、反論も難しかったと加藤氏は言う。 「物価に依拠しない賃上げの要求方式を編み出すべきでした。それができなかったのが労組の敗因でした」 トヨタは結局、2002年の春闘で一般社員5万円、管理職8万円という特別一時金を全社員に支給するとともに、ボーナスも6.1カ月のベースに0.5カ月上乗せして事態を決着させた。 「数十万円アップの支払いとなり、社員は喜んでいた。ただ、トヨタ労組は『今日の1万円よりも明日の100円』と賃金アップこそが生活向上につながるという考えを持ってきた。それが引導を渡された。以後、トヨタだけでなく、多くの企業で業績が良くても固定費のベアではなく、一時金で還元する手法が強まっていったのです」 組合員の考え方にも変化が表れたという。ベアでは能力を発揮した人もしない人も同じように賃金が上がるが、発揮した成果や能力に応じて上下させるべきだと意見も出てきた。 中国を始めとする新興国との「安売り合戦」に疲弊した企業は、年次が上がれば給与も上がるという年功賃金のベースにも手をつけ、中高年の定昇を下げる企業が多くなった。また物価が上昇しない中での賃上げで、定期昇給分を割り込むような年も何回かあった。その結果、賃金は下がり続け、消費も減る悪いスパイラルに入っていった。 「賃金が上がらなければ、将来不安から消費よりも貯蓄に回す。ベアゼロの回答は消費不振の形で企業に跳ね返ってくる。マクロでの経済成長の視点が、企業の経営陣にも労組にもなかった」(加藤氏) 労働組合の機能不全が経済全体の冷え込みにもつながった。それがこの四半世紀の流れだった。
労組は対価を求め、経営陣は企業価値を上げる
現在、日本の賃金はG7(先進7カ国)の中で最低だ。経済開発協力機構(OECD)の各国別賃金水準の見通し(2023年)をドル換算すると、日本の年収は約3万2000ドル(約432万円)で、アメリカの約7万6000ドル(約1026万円)とは2倍以上の差がある。韓国の約3万5000ドル(約472万円)にも及ばない。