労働組合はなぜ弱体化したのか グーグルや大学生が結成の動き「本気で戦う組合必要」
それでも2023年春闘で、明るい兆しは表れた。大手製造業の満額回答は8割を超え、日本航空では労組要求のベースアップ月6000円に対し、月7000円と要求以上となった。ニトリHDも5%の賃上げを回答。イオンはパート約40万人の時給を平均7%引き上げた。大手銀行では20万円程度だった初任給が25万円になる。未曽有の物価上昇に見舞われるなか、企業が賃上げをすることで経済の底上げにつながるのか。 それには消費者の考え方も変わらねばならない、と前述の荻野氏は提言する。 「消費者も『1円でも安く』という発想から、ある程度の値上げを容認することが求められています。モヤシが20円という安さで買えるのは本来おかしなこと。消費者が値上げを受容すれば適正な賃金が支払われ、働く人の可処分所得が増えれば消費も行われる。2023年春闘は中小企業や非正規にも賃上げが波及しつつある。この先、これを分岐点にマインドを転換すべきだと思います」 今後、労働組合はどうあるべきか。労組は「生活の向上」を訴え賃金アップを望み、経営者は利益の確保のため賃金が低いことを望む。それぞれの論理は対立する。前出の首藤氏は、賃上げは企業価値としても求められると説く。 「労使協議を経て生産性を高め、賃金を上げる。企業業績が向上すれば、高い賃金を支払える余地ができる。企業別組合は経営陣と協議を重ねることで信頼関係を構築しやすい。少なくない日本企業では労働条件に関わる問題で労使が協議する体制が築かれてきた。その基本に立ち返ることです。次の成長に向けて人への投資を進める。労組はもっと対価を求めていいし、経営陣はそれに対して企業価値を上げる。そのサイクルの実現に近道はなく、労使が緊張感を持ちつつ、話し合って継続的な努力を行うことしかないと思います」
--------- 岩崎大輔(いわさき・だいすけ) ジャーナリスト。1973年、静岡県生まれ。講談社『フライデー』記者。政治やスポーツをはじめ幅広い分野で取材を行う。著書に『ダークサイド・オブ・小泉純一郎 「異形の宰相」の蹉跌』(洋泉社)、『激闘 リングの覇者を目指して』(ソフトバンク クリエイティブ)、『団塊ジュニア世代のカリスマに「ジャンプ」で好きな漫画を聞きに行ってみた』(講談社)がある