ご近所突撃で警察沙汰に、でも施設なんて絶対イヤ――認知症患者ルポ第2弾
◇ゴミの山から必死で通帳を探す
健一さんと美智子さんは、一刻も早く千恵さんを施設に入所させようと奔走した。診断書が手に入り、次にやらなければならないのは資金の確保だった。 「千恵さんは旦那さんが亡くなっていて、子どももいなかったから、親族は私(健一さん)と私の兄弟しかいないんだよ。兄弟の中では私が一番若いし、幸いまだ元気で動けるからやれることはやろうと思うけれど、お金だけはどうしようもない。自分たちの老後の資金に手を付けてしまったら、私たちが路頭に迷ってしまうからそれはできないんだよ。千恵さんの資金で何とかするしかない」 二人は家のゴミを片付けながら、千恵さんの預金通帳や保険証券など資産を把握するために必要な書類を必死に探した。キャッシュカードなど取引の参考になりそうなものが見つかれば、その都度渋る千恵さんを連れて銀行に赴き、通帳を再発行して残高を確認した。 「最初は『私のお金を盗むつもりなんでしょ』なんて怒鳴られて。これも認知症の症状よね。私たち、お金なんて欲しくないわよ。でも本人の同意なしに預金はおろせないんだもの。本人を説得するよりほかないのよ。健一さんが何度も何度も千恵さんに話してくれて、最後には千恵さんも『分かった』って言ってくれたの」 約2年をかけて、ようやく二人は千恵さんの資産をおおむね把握した。おおむねというのは、これが全ての資産だと確認する方法がないからだ。幸いなことに、近隣の介護付き有料老人ホームの入居金と今後20年ほどの月額費用を支払えるめどがたった。あとは、千恵さんの承諾を得るだけだが……。 次回、連載第4回「災い転じて無事施設へ、もしも発症していなければ――認知症患者ルポ第3弾」は1月中旬公開予定です。
メディカルノート