ダークマターの正体解明につながるか 65億光年先の銀河で発見
地球から65億光年離れた銀河の中に44個の星が発見された。これまでに捉えることができた遠方銀河の星の数を大幅に上回る新記録だ。個別に観測できる星の数が増えることで、統計学的な研究が可能となり、ダークマターを含むさまざまな宇宙の謎の解明が期待される。 千葉大学を中心とする国際共同研究チームは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測画像の解析から、くじら座方向にある銀河団アーベル370の向こう側に位置する遠方銀河の中の44個の星を特定した。これには、重力レンズという観測手法が用いられている。遠方の星の光が銀河団などの大きな質量のある場所を通過するときに、光が屈折して虫眼鏡を通したように収斂され、何百倍から何千倍にも明るく見えるというものだ。1924年にロシアの物理学者フヴォリソン オレスト ダニーロヴィッチが重力レンズ効果の論文を発表し、1936年にアインシュタインが解説したことで広く知られるようになった。実際にその効果が確認されたのは1979年のことで、以来、数多くの観測に利用されている。重力レンズで遠方銀河のなかの星を個別に検出できるようになったのは2018年のことだ。 今回の発見は、銀河団アーベル370の重力場による重力レンズ効果を利用している。観測対象となった銀河は、アーベル370の重力レンズ効果により細長く引き伸ばされて見えることから「ドラゴン」と呼ばれている。そのドラゴンの左側の領域の、2022年と2023年に撮影された画像を比較して、星のまたたきから44個の星を捉えることができた。その一部は、赤色超巨星であることまでわかった。これまで遠方銀河で発見された星は青色超巨星が多かったのだが、比較的温度が低い赤色超巨星を発見できたのは、波長の長い光を効率よく捉えられるジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の威力だ。こうして、重力レンズとジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の組み合わせにより、遠方銀河の星を個別に詳しく観測できるようになったということだ。 今回の成果につながった画像は、いくつかの研究チームの観測で得られたものが使われている。たまたま観測対象が重複していたことが幸いした偶然の産物だ。今後は、綿密な計画のうえで数百単位の星の詳細な観測を行うということだ。遠方銀河の星を大量に観測できるようになれば、統計学的な研究が可能になり、銀河の進化に関する新たな発見も期待される。また、宇宙の質量の約85パーセントを占めながら、重力にのみ作用する性質から電磁波での観測が不可能なため未知の存在となっているダークマターについても、その正体に迫る研究に新しい道を切り開く可能性があると研究チームは話している。
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