なぜ川崎は主力が海外流出してもJ連覇を達成できたのか?
黎明期からクラブを支えてきたレジェンドが現役に別れを告げ、主軸を担う精鋭たちが次々と新天地へ羽ばたいても王者は強かった。川崎フロンターレがJ1リーグ連覇を達成し、通算優勝回数を歴代2位タイとなる「4」に伸ばした。 首位を快走する7連勝中の川崎は3日の明治安田生命J1リーグ第34節で、ホームの等々力陸上競技場で浦和レッズと対戦。試合終了間際に失点を許して1-1で引き分けたものの、2位の横浜F・マリノスがガンバ大阪に0-1で敗れて勝ち点差が13ポイントに広がったため、残り4試合で逆転される可能性が消滅した。 昨シーズン限りで精神的支柱の中村憲剛氏が引退し、中盤の要だった守田英正もポルトガルへ移籍。今夏には東京五輪代表に名を連ねた田中碧と三笘薫もヨーロッパへ移籍しながら、歴史的な独走で他チームを圧倒した昨シーズンとは異なる強さを発揮。直近の5シーズンで4度目の頂点に立ち、川崎時代の到来を強烈に印象づけた。
浦和に引き分けたが横浜F・マリノスが負けてV決定
数分間のタイムラグをへて、ちょっぴり不満げな表情が満開の笑顔に変わった。同時間帯で行われていた一戦でマリノスが敗れた一報が、川崎の連覇を告げた瞬間だった。 指揮官として4度目のJ1リーグ優勝を達成。鹿島アントラーズのオズワルド・オリヴェイラ監督、いま現在は日本代表を率いるサンフレッチェ広島の森保一監督を抜いて歴代1位になった、川崎の鬼木達監督が第一声に本音と悔しさを同居させた。 「率直にホッとしていますけど、あとは勝って終わりたかったですね」 新型コロナウイルス禍で降格なしの特例が設けられた昨シーズンをへて、従来よりも2増の20チーム、4増の38試合制で争われた今シーズン。川崎は4試合を残して26勝7分け1敗、勝ち点85で2シーズン連続4度目の頂点に立った。
ツイッター上にハッシュタグ「川崎フロンターレ被害者の会」が登場するなど、異次元の強さを発揮した昨シーズンは34試合で26勝5分け3敗、勝ち点83だった。ともに史上最多を塗り替えた勝利数と勝ち点を、ちょうど34試合を戦い終えた今シーズンの川崎は前者で並び、後者では前節で勝利した段階ですでに更新していた。 マリノスをはじめとする他チームを再び圧倒し続けての連覇を、キャプテンのDF谷口彰悟は「昨シーズンとはひと味違う感覚がある」と振り返る。 「勝ち点の積み上げ方を見れば『いい結果だった』と思われるかもしれないが、実際にプレーしている選手としては一戦一戦必死に、ぎりぎりのところを勝ちに持ってきた。みんなで苦しみながらも、我慢強く戦い続けた結果の優勝だと思っている」 今シーズンを東京五輪の前後で比べれば、谷口が何を伝えたいのかがわかる。 2月の開幕から7月までの22試合で18勝4分けをマーク。総得点53に対して総失点15と抜群のハーモニーを奏でながら首位を独走した要因を、副キャプテンのFWレアンドロ・ダミアンは「昨シーズンの形で試合を重ねられた」と振り返る。 昨シーズン限りでレジェンドの中村氏が引退し、アンカーとして攻守両面で代役のきかない存在感を放っていた守田がサンタ・クララへ移籍した。それでも、特に後者の穴は名古屋グランパスから加入したジョアン・シミッチが埋めた。 一転して東京五輪後の12試合は、8月25日のアビスパ福岡戦で喫した初黒星を含めて8勝3分け1敗。この間の総得点は「18」に、1試合平均では「1.5」にとどまり、東京五輪前までの「2.4」から大幅に減少している。福岡に負けた時点で、猛追してきたマリノスに勝ち点でわずか1ポイント差にまで肉迫されていた。 福岡戦前にも川崎は柏レイソル、広島と続けて引き分けた。減速した理由はインサイドハーフの田中がフォルトゥナ・デュッセルドルフへ、左ウイングの三笘がブライトンをへてロイヤル・ユニオン・サンジロワーズへ移籍した夏場と密接にリンクする。 昨シーズンから欠かせない存在として屋台骨を支えてきた、東京五輪代表の2人がほぼ同時に移籍。さらにシミッチまでもが負傷離脱した川崎はシーズンの真っ只中で、ダミアンをして「チームを新しくしての再スタート」と言わしめた苦境に直面した。 「結果が出なければ、誰々が抜けたからだと必ず話題になる。いろいろな要素に引っ張られてはダメだと、今シーズンの最初からずっと考えてきた。結果を出すためには人を育てることが必要になるが、焦ると人は育っていかない。そこのせめぎ合いを自分のなかで意識しながら、チーム全体をマネジメントしていた」