ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者の三宅香帆と考える、新時代の女性の働き方とは
仕事に心も身体も捧げるのが理想とされていた時代もあった。でも本が読めなくなるほどの“全身全霊”の働き方は、果たして持続可能なのだろうか。新書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が大ヒット中の三宅香帆さんとこれからの時代の女性の働き方を考える。
1. 本が読めない!
「小さな頃から本が大好きで、大学は文学部に進学。もっと本を買えるようになりたいとIT企業に就職し、朝9時半から20時すぎまで働く生活をしていたら、いつの間にか大好きだった本を読めなくなっていました。通勤中や就寝前に少しの時間があっても、本を読む心の余裕を失っていたんです。それを大学の同級生に話すと、みんなも同じ状況に陥っていました。 就職すると文化的な趣味を失うというのは、映画『花束みたいな恋をした』で、学生の時は本好きだった麦(菅田将暉)が就職してスマホのゲームしかできなくなるシーンでも描かれています。多くの人にとって心当たりがあることなのに、これまであまり語られることがなかった労働と読書。働きながら文化的な生活は両立できないのかという疑問が『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を書くきっかけになりました」
2. 女性の労働と読書の関係
「労働と読書の歴史をひも解く中で、女性にフォーカスしてみると、大正時代から女性向けの雑誌や少女小説は存在していたものの、働く女性を対象にした小説や漫画が登場するのは1970~80年代以降。戦後に登場した有吉佐和子さんや田辺聖子さんなど“女流作家”と呼ばれる人たちがその流れを牽引しました。 当時は、一部のエリートを除けば結婚して専業主婦になることが主流で、婚期を逃した女性は“ハイミス”と呼ばれていた時代です。1986年の男女雇用機会均等法施行後、正社員として雇用される女性が徐々に増え、働く女性にスポットが当たるようになりました。2000年代には、安野モヨコさんの『働きマン』(04~08年)やおかざき真里さんの『サプリ』(03~09年)など、バリバリ働く女性が描かれた漫画が登場します。 しかし、『働きマン』の松方弘子は28歳、『サプリ』の藤井ミナミは27歳という設定で、2000年代は20代後半が働く女性のマジョリティでした。この10年、景気後退とともに共働きが一般化。ライフステージが変わっても働き続ける人が増え、小説や漫画にも30~40代など、より幅広い年代の働く主人公が登場しています」