ベストセラー『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者の三宅香帆と考える、新時代の女性の働き方とは
3. 頑張ったのにバーンアウト!「疲労社会」から身を守れ
「労働と読書について調べてみると、これまでの社会は、常に“全身全霊”で働くことが求められていました。長時間労働が当たり前になり、働くことによって自己実現をする。ドイツ在住の哲学者、ビョンチョル・ハンは、もっとできるはずだと自らを鼓舞し、自分から戦いに参加し続けるように仕向ける新自由主義的な現代社会を『疲労社会』と名付けました。 この社会は、常に全身全霊で働いた揚げ句、うつ病や燃え尽き症候群を引き起こします。考えてみると、学生時代から常に全力で頑張ることを求められてきました。部活では休むと周りに迷惑をかけると刷り込まれ、休まずに登校すれば皆勤賞として褒められる。この価値観が内面化し、社会人になっても休むことに罪悪感を覚えてしまう人も少なくないでしょう。社会だけでなく自分自身からもせき立てられ全身全霊で疲弊していく自分をどうやって守っていくのでしょうか。 一定期間、仕事に熱中をするのは成長にもつながります。仕事はチームワークなので、他人に迷惑をかけないように頑張ることも大切です。でも、どこかで意識的に自分優先に切り替えないと、燃え尽きてしまうことにもなりかねません。また、精神的にも仕事がアイデンティティの全てになると、仕事がうまくいかないときに心の安定を保つことが難しくなります。趣味や家族との時間をつくり、心の中に仕事以外の領域をキープすることが、働き続けるために必要なことなのではないかと思います」
4. “半身”で働こう
「男性も女性も、ライフステージが変化してもずっと働き続ける時代になりました。特に女性は、ホルモンバランスの関係で変化していく体調とのバランスを取りながら、長く働き続けなくてはならないという新たな課題に直面しています。そこで、これからの働き方として“半身(はんみ)で働く”ことを提案したいと思います。 これは社会学者の上野千鶴子さんが“全身全霊で働く”男性に対し、女性は“半身で関わる”と表現した言葉です。女性の半身は家庭にあり、社会に半身で関わらざるを得ないというニュアンスだったのですが、これからの社会は、全ての人が“半身で働く”ことが理想的なのではないでしょうか。半身で社会にコミットすることで、もう半分は趣味や家庭、育児、健康のための時間に充てることができます。働きながら本を読むこともできます。結果的にうつ病やバーンアウトを防ぎ、持続可能な働き方を実現するのではないかと思っています。 しかし、半身では収入も半分になってしまうのでは、と危惧されるかもしれません。『世界は夢組と叶え組でできている』の著者、桜林直子さんはシングルマザーになったとき、これまでと同じ収入を半分の時間の労働時間で確保するため、会社を辞めて独立しました。働き方を工夫し、そして空いた時間を家族のこと、身体のメンテナンスなどに充てることができたら、長期的に見ると全体の収入が上がるかもしれません。結果を出し続けるために、余力を半分残しておく。また社会全体も、長期的なパフォーマンスのために全身全霊の労働を礼賛しないことも必要です」